若手医師と管理職では求められる能力が違うからだ。前者に求められるのは、与えられた仕事を素早くこなす能力だ。受験戦争を勝ち抜いてきた医学生には、この能力は高い人が多い。

 自分が指導者になって実感するが、「優秀」な若者は使いやすい。多くの教授が「自分の研究室で実験したら」などと言って、学生を囲い込もうとするのも理解できる。真面目な学生ほど誘いに乗りやすい。

 これではやがて行き詰まる。学生時代は研究室、卒業後は病院にこもりつづけ、医者ばかりと話していたら、「専門バカ」になってしまう。将来のリーダーとしての基本的な力が身につかない。

 医療界はリーダー教育の重要性を認識していない。論文のインパクトファクターや臨床能力を教授選考の材料にするなど、スター選手をそのまま監督にしていた、かつてのプロ野球界と変わらない。

 リーダーに必要なのは、コミュニケーション力、時代を読む力、そして指導力だ。ところが、教授選考で、これらの点は全く考慮されない。

 私は、30歳を超えた医師には、プロ野球のヤクルト阪神の監督を務めた野村克也氏の本をすすめている。なぜ、彼が弱小チームを育てることができたのか、その試行錯誤ぶりがわかる。

 日本の医療の将来は人材育成にかかっている。スケールの大きな人材を育てるため、もっと広い視点をもつべきだ。学生諸君は夏休みの使い方を大いに考えてほしい。(文/上昌広)

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上昌広

上昌広

上昌広(かみ・まさひろ)/1968年生まれ。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所理事長。医師。東京大学医学部卒。虎の門病院や国立がんセンター中央病院で臨床研究に従事。2005年東京大学医科学研究所で探索医療ヒューマンネットワークシステムを主宰。16年から現職。著書に病院は東京から破綻する(朝日新聞出版)など

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