侍ジャパンが本気で「世界一」を目指すなら、稲葉監督の就任には反対だ。上記4項目のみを考えた場合、原辰徳氏や野村克也氏など、もっと経験豊富な指揮官が浮かぶ。勝つことを考えれば、彼らに本番の短期決戦のみ任せるという選択肢もある。

 しかし侍ジャパンには運営上、常設監督を置く必要があり、さらに目指すのは「世界一」ではない。今回、見据えるのはあくまで2020年東京五輪の金メダルだ。

 この大会は7月から8月に開催されるため、メジャーリーガーの参加はまず考えにくい。一方、WBCは回を増すごとに一流メジャーリーガーの参加数が増えており、まだまだ改善の余地が多くあるとはいえ、国同士の対抗戦形式で頂点を争う舞台だ。

 果たして、稲葉監督の視線はそこまで向いているのか。

「オリンピックという大会は選手の人数も限られますし、コーチの人数も非常に限られます。2021年のWBCの大会は、またちょっと違うのかなと思っていまして。とにかくいまはオリンピックに向けて、コーチの人選も含めていま迷っている最中ですので、そういう意味でもいまは、オリンピックで金メダルをとることしか頭にないので、そこに全力を注いでやろうとしています」

 アマチュア主体の東京五輪に日本はプロ野球を中断し、国内のトッププロ選手を結集させることが濃厚だ。実力的にライバルとなるのは韓国くらいだろう。一流プロをそろえながら苦杯をなめた2008年北京五輪の例はあるが、普通にやれば金メダルは見えてくる。

 稲葉監督の指揮官としての経験不足は、本番までに実戦機会を積ませていけばいい。実際、小久保前監督は采配経験を重ね、最後のWBCでは攻撃面の采配で柔軟さが見られた。カギになるのは投手陣の起用、特に継投だ。腹を割って話せる専門家を投手コーチに据えれば、この点もクリアできるだろう。

 侍ジャパンが掲げる目標は、あくまで2020年東京五輪。決して高い山ではなく、指揮官を支えるコーチ陣の選定さえうまくいけば、十分に到達できるはずだ。(文・中島大輔)