●有識者は政権を利用して規制改革を進める人たち

 もう一つ、この問題を理解するために知っておくべきことがある。それは、国家戦略特区諮問会議やWGの一部の民間有識者が、一般の省庁の審議会メンバーとは根本的に異なる行動をするということだ。

 一般の審議会は、役人が仕切っていて、委員は基本的に箔づけのためのお飾りである。審議も役人が主導して進め、報告書も役人が書く。しかし、今回記者会見したメンバーは、自分たちが会議を仕切り、官僚が抵抗しても、政治家を使って逆に切り崩していくということをやる人たちである。

 彼らは、安倍政権に使われているように見えるが、一部の委員たちは、逆に安倍政権を使って改革を進めようとしているのだ。したがって、改革の必要性を声高に叫ぶだけでなく、個別に菅義偉官房長官など官邸や内閣府の幹部にブリーフして、政治的に後押しをさせるというようなことまでする。原英史氏(GW委員。元経産省キャリア官僚で渡辺喜美元行革担当相の補佐官も務めた人物。現在は元財務官僚の高橋洋一氏とともに株式会社政策工房を経営し、政策立案などをビジネスにしている。)は今や菅官房長官の懐刀とまで言われているそうだ。

 安倍総理が、「頭に来たから」どんどん獣医学部を作れと言ってしまったのも、おそらく日ごろ彼らから、直接か間接かは別にして、「文科省はとんでもない役所です。獣医学部や獣医師会の利権と癒着して、寝転がって動かないんです」という話を聞いていたからであろう。安倍総理の頭には、それに対する怒りがベースにあって、「そんな悪玉が『行政を歪めた』などと正義の味方を演じ、とんでもない言いがかりをつけてきた」となり、「だったら、奴らが一番嫌がる全面解禁をしてやるぞ。ざまあ、みろ。思い知ったか!」という反応になってしまったのではないかと思われる。

 安倍総理としては、格好よく大見得を切ったつもりだったのだ。

●有識者の正義感を悪用した安倍政権の利権誘導

 こうしてみると、有識者と文科省のどちらが悪玉でどちらが善玉かというような単純な構造にはなっていないことがお分かりいただけると思う。

 そういう二元論に目が行くと、物事の本質を見失う。

 幸い多くの国民がすでに気づいているとおり、問題は、規制改革の政策論ではなく、加計学園の獣医学部新設が決定する過程での不正な利権誘導である。

 安倍政権は、元々規制改革に熱心ではない。もし、熱心であるなら、最初から獣医学部の新設を全国で解禁するという諮問会議メンバーの議論をサポートすべきなのに、それは最初からやる気がなかった。

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