歴史教科書になぜか反映されない最新研究。なぜなのか? 毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された、文教大学生涯学習センター講師・早川明夫さんの解説を紹介しよう。

*  *  *

 今年2月に文部科学省が次の学習指導要領の改訂案を公表した。「聖徳太子」「元寇(げんこう)」「鎖国」などの用語表記を変えるというものだった。

 改訂案は近年の歴史研究の成果を踏まえ、「聖徳太子」については、小学社会では人物学習を重視するので「聖徳太子(厩戸王[うまやどのおう])」とし、中学社会は史実を重視する観点から「厩戸王(聖徳太子)」と表記を変えるという内容だった。「元寇」や「鎖国」についても別表の通りである。

 ところが、改訂案に対する意見を公募したところ、聖徳太子に関しては、小・中学校で表記が異なると「教えにくい」「現場に混乱を招く」といった意見が数千件寄せられた。国会でもこの問題が取り上げられ、ある議員は「親の代で教わったことと子の代で教わったことが違っていたら親子の歴史対話ができない」と歴史教育の連続性がなくなると主張。また別の議員は聖徳太子を「日本人の精神の支えであり、これを括弧扱いすることなど、歴史に対する冒とくである」と改訂案の見直しを要求した。どちらの意見も、歴史は変わらないものだという考えに基づいているようだ。

 だが、歴史は不変ではない。考古学的発見や新史料の発見など、研究が進んだことで、歴史が大きく塗り替えられた例もある。

 例えば、戦前まで日本列島には旧石器時代は存在していないとされていたが、1949年の岩宿遺跡(群馬県)の発掘調査の結果、その存在が明らかになった。戦前の日本の歴史(国史)は縄文時代の記述はなく、神話に登場する実在しない天照大神から始まっていた。しかも、神話を歴史的事実として教えていた。

著者 開く閉じる
早川明夫
早川明夫

1 2