完食一徹は、妻と小学1年生の息子、4歳の娘と暮らす40代男性。福岡の企業に勤め、ポストは「係長」だ。家庭では子煩悩、会社では情に熱く部下想い、場を盛り上げるひょうきん者だというが、市が15年に製作したポスターの表情は、怖い。

 頭にネクタイを巻いた姿でありながら、太い眉を吊り上げて「おいおいおい。こんなに料理を残したまま、もう二次会か?これじゃあとても、ごちそうさまとは言えないよな」と、料理を残さないよう迫ってくる。「一目見てインパクトがあるキャラクターにしたかった」(福岡市の担当者)。ポスターを市役所や地下鉄の駅などに張り出したところ、SNSなどで反響を呼んだ。

 市民らの反応はおおむね好評だったが、「威圧的で怖い」という声もあった。これを受け、市は16年、「完食宣言」と書かれた横で、一徹が、歯ぐきを見せて笑っている新しいポスターを製作した。忘年会シーズンの12月には、福岡ソフトバンクホークスの応援歌に乗せて、完食一徹が「食べたーかー、飲んだかー」と宴会のテーブルをチェックするCMも放送した。

 市によると、一徹が食べ残しにこだわるのは、幼いころ、祖母に「感謝してたべり~よ」「もったいなか~」と言われたことや、学生時代に所属していたラグビー部の監督から「おいしく食べることが勝因だ!」と説かれたことが影響しているという。

 また、市は16年4月から、エコ運動に賛同し、食べ残し削減の呼びかけなどに取り組む市内の飲食店や宿泊施設を協力店として登録しているが、一徹の起用が奏功したのか、17年6月16日現在、協力店は249店まで増えている。

 今後も、一徹を起用した新たなポスターを製作する予定だ。担当者は「これからは暑気払いの飲み会シーズン。ポスターの一徹の顔を見て、食べ残しをなくそうと思ってもらえれば」と“一徹効果”に期待する。川西市の完食戦士の存在を伝えると、「よきライバルとして切磋琢磨(せっさたくま)していきたい」とさわやかな答えが返ってきた。

 国が15年度、東京と大阪の飲食店などを対象に行った調査では、宴会の食べ残し量の割合は14.2%に上った。飲み会では、おしゃべりを楽しみつつ、完食戦士や完食一徹の姿勢を見習って、出された料理を残さずに味わいたいものだ。(ライター・南文枝)