「芸人コメンテーター」として、いま最も注目されているのは、やはり松本人志だろう。大きなニュースがあるたびに、彼が『ワイドナショー』でそれについてどう語るのか、ということが毎回注目の的になり、ネットニュースなどでもその発言が大きく取り上げられている。

 彼のコメントが重宝される理由は、そこに揺るぎないオリジナリティがあるからだ。松本は、一切の政治的配慮や保身や偏見を抜きにして、「松本人志」という個人の立場からはっきりと意見を述べている。時には、一般的な倫理や常識や道徳に反するように見えることすら、堂々と主張することもある。

 それができるのは、松本がもともと、お笑いの世界でもそうやって自分の立場を築いてきたタイプの人間だからだろう。「分かるやつにだけ分かればいい」というスタンスを貫き、決して自分のやりたいことを曲げようとはしなかった。

 松本のそのような姿勢が、ニュースに対するコメントひとつにも現れているのだと思う。だからこそ、世間は松本の意見を無視できない。その言葉の中に宿っている、松本人志という個人の思いがダイレクトに伝わってくるからだ。その点、松本だけは他の芸人コメンテーターとは別格の存在だと言えるかもしれない。

 ただ、そんな松本も、結婚して子供を持ったからこそ、一人前の大人としてコメンテーターを務められるようになった、という点ではほかのアラフォー芸人たちと同じだ。コメンテーターという仕事は、芸人のキャリアの一段階として、これからさらに一般的なものになっていくだろう。(文/お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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