■予防的切除という新たな選択肢も

 遺伝カウンセリングは、医師か専門の遺伝カウンセラーが担当する。遺伝カウンセラーは専門的な情報提供をし、もし変異があれば一緒に対策を考え、長期にわたって患者のサポートをしてくれる医療職だ。

 従来、遺伝子検査は乳がんの治療後、今後の再発リスクや家族の発症リスクを知る目的でおこなわれることが多かったが、最近は乳がんと診断されて、治療法を決める前におこなうことが増えている。

 一般的に、乳房温存術には放射線照射が組み合わされることが多い。しかし、遺伝子変異がある場合、同じ乳房にがんが再発するリスクがやや高く、さらにもう片方の乳房にがんが発症するリスクも高いため、乳房全摘術が検討される。乳房全摘術であれば放射線治療が要らず、乳房再建術も保険が適用される。将来の再発の心配をせずにすむよう、乳房全摘術+乳房再建術を希望する人が増えているという。

 木澤さんは、自分が遺伝性乳がんである可能性がどれくらいあるか、今後のリスクや、検査のデメリットなどをくわしく説明された。検査自体は血液検査なので、からだの負担はほとんどないが、結果によっては精神的なダメージを受けることもある。また、現在の遺伝子検査の限界についても理解しておくことが必要だ。

「もし変異がなかったとしても、反対側の乳房にがんができないということではありません。現在のところわかっていない他の遺伝子変異がある可能性もあります」(新井医師)

 さらに全体の4%程度ではあるものの、変異があるかどうかが不明というケースもある。

「遺伝子検査の意義や注意点を理解していただければ、BRCA 1/2遺伝子検査は家族も同じ変異を持っている場合に、あらかじめ対策をとることができる、予防医療の一つとして重要な選択肢であると思います」(新井医師)

 話を聞いた木澤さんは、遺伝子検査を受けることにした。

「乳がんは早期発見すれば治療できるがん。料金についてはうっ、高い……と思いましたが、家族も心構えや準備ができるので、知って損なことは全くないと思います。それに温存術か乳房全摘術かで迷っていたので、参考にしたいと思って」(木澤さん)

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