興味深いのは、東京が医師流出都市であることです。東京の年間の医師養成数は1286人ですから、17%の医師が都外に流出していることになります。マスコミが言うように、医師が移動するのは、必ずしも「都会を目指す」からではないようです。

 千葉県や埼玉県へ医師を供給している地域のひとつは、東京都です。そのほかは東北地方と甲信越地方で、いずれも養成した医師の約3分の1が首都圏に流出しています。東京から埼玉県・千葉県への医師の流出を考慮せず、この現象だけを見ると、確かに「医師は都会で働きたがる」ように見えます。

■西の医師は東に来ない

 しかし、おそらくそれは実態ではありません。医師の流出入と人口あたりの医師の養成数は高度に相関します。人口10万人あたりの医師の養成数が1人増えると、医師の流出率は約13%増えます。つまり、日本の医師は、医師養成数の多いところから、少ないところに移動する傾向が強いのです。地方か都会かは、私たちの調べた範囲では、医師の移動にあまり関係がありません。

 一見ありがたいことですが、医師の移動にはある特徴があります。医師の多い西日本から東日本への医師の移動は少ないのです。

 日本の医師の移動は、基本的に九州、関西(四国・中国・近畿)、中部(北陸・東海)、東日本(東北・甲信越・関東)、北海道という地域内でほぼ完結しています。地域をまたいだ医師の移動は無視できるほど少ないのです。

 東日本では医師を求め、東日本内でゼロサムゲームを繰り返すことになります。人口あたりの医師養成数が最も少ない首都圏に、それよりは多い東北地方や甲信越地方から流入することになります。

 最近、状況は、首都圏にとって悪い方に変わりつつあります。東北地方や甲信越地方の医師不足が深刻化したため、「医学部の地域枠の拡充」や「義務年限と引き替えの県からの奨学金の貸与」のような制度が整備されつつあるからです。

 地元の医学部を卒業した医師を抱え込む施策が行われれば、東日本での医師の移動が制限されます。首都圏の医師不足はさらに深刻化してしまうのです。

※『病院は東京から破綻する』から抜粋