「もし、僕らが最前列だったら、降ろされてしまったんだろうか」

 隣に座るカメラマンが口を開いた。

 2016年の12月、蘭州中川空港にいた。1年ほど前に新しく完成したターミナル2でチェックインが行われた。近未来という言葉が浮かんでくるようなターミナルだった。正面には、中国の新幹線の駅があった。蘭州駅と結ばれていた。いってみれば、エアポートエクスプレスなのだが、それを新幹線にしてしまうあたりが中国だった。

 前夜、僕は蘭州にいた。駅近くにバラック建てのような建物が並ぶ飲食街があった。出稼ぎの人々が勝手につくってしまった一画だった。そのなかの一軒でビールを飲んだ。飲食街のそこかしこに張り紙があった。この一画の衛生問題に対する注意だった。後でその文面を知人に見てもらった。

「おそらく立ち退きのための口実づくりですね。中国のさまざまなところで立ち退きが起きていますから」

 食堂の2階からは、教科書を読む子供の声が聞こえてくる。

 蘭州の街並みと、蘭州中川空港のターミナル2が結びつかない。

 中国の空港ではいつも、この国の矛盾を見せつけられてしまう。

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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