演技を終えた羽生は、冒頭の4回転ループの失敗を悔やんでか腰に手を当ててうつむくような仕草を見せた。しかし鳴りやまないアンコールに応え、昨季のショートプログラム「レッツゴー・クレイジー」の曲が流れる中再登場すると、耳に手を当てて声援をあおる。見せ場である膝をつきのけぞって滑っていくパートを演じるも、体勢が崩れて横に転がるようなかたちになった羽生は、土下座して観客に謝る。フィナーレでも、失敗した4回転ループに再度チャレンジし、羽生らしい負けん気を見せた。

 過去2シーズンを通して使用したプログラムを、五輪シーズンで再度使うのは珍しいパターンといえるが、世界歴代最高得点を2度更新した「バラード第1番」に、羽生が絶対の自信を持っているということか。ソチ五輪後、静かなクラシックとグルーヴ感のあるロックという対照的な曲を試してきたショートプログラムで、羽生が平昌五輪で滑ることを選択したのは高い評価を得た「バラード第1番」だった。たゆまぬ努力をジャンプの構成に反映しながらも、振り付けたジェフリー・バトルが、周囲の喧騒にかかわらず自分のスケートに集中してほしいという思いを込めたプログラムの持つ意味はそのまま生かすことで、連覇を目指す平昌五輪において「バラード第1番」は羽生の強力な武器となるだろう。

 登場するたびにひときわ大きな歓声を受け、共演したエフゲニー・プルシェンコにも負けないオーラを発していた羽生。ビデオ出演しかできなかった一年前を振り返れば、ショーを通して滑る喜びに満ちていた元気な姿こそが、平昌五輪へ向かう羽生の一番の好材料かもしれない。(文・沢田聡子)