乾が及第点のシーズンを過ごした一方、鳴り物入りでセビージャに入団した清武弘嗣(現:セレッソ大阪)はわずか半年での移籍を余儀なくされている。デビュー戦でいきなり得点を記録するなど、揚々たるスタートだったが、そこがピークだった。その後は日本代表に招集されるたび出場機会が遠ざかり、最後は戦力外として扱われた。

 清武が日本に撤退した理由を簡潔に記すことは難しい。

 一つ言えるのは、セビージャが欧州チャンピオンズリーグでベスト16に勝ち上がる強豪で、単純にレベルが高かった。ホルヘ・サンパオリ監督の戦術は特殊で、パスをつなぐだけでは十分ではない。ボールを持ったら、相手(のマーク)をはがせる力も必要とされたのだ。

 清武はパサータイプで、サミル・ナスリのように一人でボールを運ぶ力はない。あるいはサラビアのようにサイドバックとして適応することもできなかった。そしてスペイン語力の低さは致命的だった。

 しかし総括すると、リーガにおける日本人選手の市場価値は上がった。柴崎岳のテネリフェ移籍も、実は乾の活躍によるところが大きい。日本人選手がスペインのマーケットを広げるか?それは乾や彼に続く選手の存在が決めるだろう。

小宮良之
1972年生まれ。スポーツライター。01~06年までバルセロナを拠点に活動、帰国後は戦うアスリートの実像に迫る。代表作に「導かれし者」(角川文庫)、「アンチ・ドロップアウト」3部作(集英社)、「おれは最後に笑う」(東邦出版)など。3月にシリーズ第6弾となる「選ばれし者への挑戦状」(東邦出版)を刊行。