治療の柱は、薬物療法などの身体的な治療と、精神療法や認知行動療法などの心理社会的な治療を組み合わせて、患者の心を解きほぐしていく。また、静養に専念する、生活リズムを整えるなどの目的で、入院治療も行う。体と心の病気は切り離せないので、他科に入院している患者のもとに出向いて、心の面から治療を行うこともある。

■すべての経験を診療に役立てられる

「かつては病気の治療を重視していましたが、今はその人を支える障害支援という視点に変わってきました」

 入院患者が減る一方、外来患者は増加している。病を抱えても、その人らしい生活や仕事ができるように、精神保健福祉士、リハビリテーションスタッフ、さらには行政や企業関係者などとの関わりも不可欠なため、幅広い連携をしていくスキルも求められる。社会の動きに敏感であることも必要だ。

 精神科医は増加傾向にあるが、そういう意味でも、増えているのは開業の医師である。急患がないわけではないが、勤務医でも特に長時間の拘束を強いられることはなく、女性も家庭と両立しやすい科目でもある。

 稲田医師は、「精神科は、すべての経験を診療に役立てることができる。浪人、留年、挫折、失恋、離婚、さらにエリート一筋という経験も、年を取ることもプラスになります」と語る。心が晴れ、新しい自分に向き合えるようになった患者から、「ありがとう」と言われることが、何よりの喜びだ。(文/塚崎朝子)

稲田健
東京都出身。1997年北里大学医学部卒。同大で初期研修。2003年同大大学院修了。04年、米国ノースカロライナ大学留学。東京女子医科大学精神科助教を経て、09年から講師。専門は精神薬理学で、標準的で適正な薬物療法を目指している