佐倉:それは相当なオタクだと言いたいですが、実は私も、論文の文献リストを見るのが大好きなんです(笑)。論文は真っ先に文献リストから見て、美しい文献リストだと興奮します。専門分野の文献がそろっているのは当然のことなんですが、ところどころにちょっと外れた分野のものが押さえてあったりすると、たまらないですね。先日亡くなった発生生物学者の岡田節人(ときんど)の本を読んだら、出張帰りでどんなに疲れていても、研究室に寄ってペトリ皿の細胞を見ると「美しい!」と感動して疲れも吹っ飛ぶと書いてありました。みんな一緒ですね。理屈抜きで好きだというのは、本当に大事ですね。

池谷:「モニターの波形を見るのが好き」なのが高じて機械の分野に進むことだってあり得るし、六法全書でもテレビゲームでもいいと思いますよ。研究者をめざす人には、いろいろな本を読んだり幅広い経験をしたりして、自分は何に興味があって何が面白いのか、「好きなこと」を見つけてと言いたいですね。そしてそこだけにとどまらないで、楽しいと思ったことからどんどん世界を広げていってほしいと思います。

佐倉統/東京大学 大学院情報学環 教授・学環長
1960年、東京都生まれ。京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。科学技術を人間の長い進化の視点から位置づけていくために、進化生物学の理論を軸に、生物学史、科学技術論、科学コミュニケーション論などを渉猟して現代社会と科学技術の関係を探る。著書に『現代思想としての環境問題』『進化論の挑戦』など

池谷裕二/東京大学 大学院薬学系研究科 薬品作用学教室教授
1970年、静岡県生まれ。東京大学大学院薬学系研究科修了。薬学博士。神経科学および薬理学を専門とし、海馬や大脳皮質の可塑性を研究。最新の脳科学の知見を出し惜しみせず、分かりやすく伝える。『海馬』(糸井重里氏との共著)、『のうだま』(上大岡トメ氏との共著)、『単純な脳、複雑な「私」』など著書多数