田村教諭のお手本を見ながら、真剣なまなざしで筆を運ぶ(撮影/佐々木実佳)
田村教諭のお手本を見ながら、真剣なまなざしで筆を運ぶ(撮影/佐々木実佳)
生徒たちの墨書された短歌作品が並ぶ書道室(撮影/佐々木実佳)
生徒たちの墨書された短歌作品が並ぶ書道室(撮影/佐々木実佳)
田村教諭が自詠短歌を書道に取り入れて17年目となる。「生徒の歌から学ぶことが多く、それを指導に反映させていくことにやりがいを感じる」(撮影/佐々木実佳)
田村教諭が自詠短歌を書道に取り入れて17年目となる。「生徒の歌から学ぶことが多く、それを指導に反映させていくことにやりがいを感じる」(撮影/佐々木実佳)

 新潟市内にある東京学館新潟高等学校では、書道の授業に短歌教育を取り入れている。短歌と書道のコラボ授業で、生徒たちはどんな歌を詠み、どのような気持ちで筆をとっているのか。ムック『東洋大学 現代学生百人一首の30年』で取材した。

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「アイタクテ アエナクタッテ アイタクテ アナタヲイツモ オモッテイマス」

 授業中に男子生徒が女子生徒にこっそり渡した、電報のようなカナ書きの短歌。東京学館新潟高等学校で書道を指導している田村裕教諭がこの手紙を見つけたのは、郷土の歌人・書道家の會津八一(あいづやいち)について学んでいたときだった。

 当時、書道の新しい題材を探していた田村教諭は、生徒自作の短歌を書道のモチーフにしようとひらめいた。

「それまでは中国の古典を題材として使っていましたが、生徒自身の言葉で詠む短歌のほうが興味を喚起できると思いました」

 以来17年間、生徒自詠の短歌を毛筆で書く授業を続けている。もともと、同校は書道の名門校として全国大会でも名を知られた存在。未来の書道家を目指そうと入学する生徒もいる。

「本格的に書道を学んでいる生徒もいるので、授業でそれほど技量は問いません。それよりも、まず楽しみながら短歌と書道を学んでほしい。生徒たち自身の言葉で、五感や感情、記憶がいきいきと伝わる短歌を目指しています」

 取材で訪れた日は、特別進学クラスの1年生40人が2クラス合同で書道の授業を受けていた。午後の2コマを使い、最初の1コマで生徒たちがつくった短歌をスライドで上映し、田村教諭が鑑賞のポイントや優れている箇所を解説し、つくった本人によるコメントも聞きながら授業を進める。

 数学と恋愛を題材にした新保梨央さんは、「特別なことがあったから歌にするわけではなく、日常のどの場面を切り取るかが簡単なようで難しい。恋の歌は自由に想像が広がるので、楽しく書ける」と、短歌づくりのやりがいと面白さについて笑顔で話す。

 短歌を取り入れた書道教育について、「墨の濃淡やとめはねの加減など、短歌に込めた思いをより深く、的確に表現する手段として書道は優れていると思います」と田村教諭は語る。

 確かに、半切の画仙紙に生徒が毛筆で書いた短歌は、作者の喜怒哀楽がダイレクトに伝わる。短歌に詠まれた風やにおいといった五感に訴えかける力も強いのかもしれない。

 達筆もあれば、味のある文字で一生懸命に綴られたものもあり、生徒40人分の作品が書道室に掛けられた様子はなかなかの迫力だ。

「まず、私が生徒の詠んだ短歌を毛筆で書き、短歌を頭のなかで何度も読み返します。そうすると、一度読んだだけでは気づかなかった長所を発見したり、当初の印象と変わることもある。それを短歌や書道のアドバイスに生かします」

 これまでに3回、皇居・宮殿で行われる「歌会始の儀」に生徒の短歌が選ばれた。いずれも最年少の選出者だ。

「生徒が大きな賞をいただくと、もちろんうれしい。そしてつくったあとも、歌は『当時の時間の記憶』として生き続ける。本当の歌のすごさは、そういうところにもあると感じています」

(志岐吟子)

※「東洋大学 現代学生百人一首の30年」より