今年の国会の主要なテーマとなったのが、「共謀罪」と「国連平和維持活動(PKO)」という二つの問題だ。ところが、政府が国会で使う「言葉」とそれが示す「現実」がかみ合わず、なかなか議論が深まらない。政府の言葉を厳しくチェックしなければ、政府に都合のいい現実がひとり歩きする恐れがある。毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された、朝日新聞論説委員・小村田義之さんの解説を紹介しよう。

■「共謀罪」で政府は迷走続き

「共謀罪」は、実際に行動を起こさなくても、何人かで罪を犯す合意をする(共謀する)だけで処罰するものだ。犯罪を計画した段階で、人を罰することができる。しかし、法に反する行為を実行しない限り、人は処罰されないのが原則だ。話し合うだけで罰するのでは、思想や言論を取り締まることにもなりかねない。

 そんな不安が強く、小泉純一郎政権が2003~05年に国会に計3回提出した「共謀罪法案」は「市民団体や労働組合も取り締まられるのではないか」などの強い批判を受け、いずれも廃案になっていた。

 このため安倍晋三政権は、今回提出した「組織的犯罪処罰法改正案」で、取り締まる対象を「組織的犯罪集団」に限り、話し合いだけでなく、「準備行為」もしなければ取り締まらないから、一般市民を取り締まることはない、などと説明。「共謀罪」でなく「テロ等準備罪」と呼び、テロ対策を前面に押し出して理解を得ようとした。

 だが、政府の説明には疑問点が多い。当初、「共謀罪法案」は国際組織犯罪防止条約(TOC条約)締結のために必要だと説明してきた。ところがこの条約はもともと、マフィアや暴力団を念頭においたもの。今回の法案も、「テロ等準備罪」と呼んでいるのに、中身の罪名や条文には「テロ」という言葉が入っていなかった。それを批判されると一転、「テロリズム集団」という言葉を加えることにした。

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AERA dot.編集部
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