実は、この考え方こそ、「先進国」の証(あか)しだ。日本にも「先進国への転換」のチャンスはあったのではないかと思う。それは、日本が「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた1980年代から90年代である。

●25年前に提出された「時短」報告書

 実は25年前、私は旧・通商産業省(現在の経済産業省)で、労働時間短縮のための政策提言を行った。長時間労働は女性のキャリア形成や男性の家庭参画を阻み、仕事と子育ての両立を難しくし、少子化の一因となるので、「時短」は日本にとって喫緊の課題だと、強く指摘する報告書を出したのだ。

 この政策提言は1992年2月4日の衆議院予算委員会総括質疑で、共産党の不破哲三委員長(当時)によって好意的に取り上げられた。不破氏は「通産省でさえ、労働時間の短縮を提言している。日本政府は長時間労働の是正に着手すべきだ」「通産省(の報告書)がいっているような恒常的残業を抜きにした生産システムを組むためには、残業の上限を法で決める」べきだと政府、特に労働相に迫った。

 25年も前に、経団連を所管する通産省でさえ深刻な問題だと指摘していたのに、この問題は、その後25年間も放置されたのである。自民党の罪は非常に大きい。
単純比較は難しいが、統計では、ドイツの年間の労働時間が1370時間程度。日本の1730時間より350時間以上短い。1日8時間労働で計算すれば、年間で40日以上短いということになる。

 日本は、途上国の追い上げから逃れるために、「人件費を下げる改革」を進めた。派遣や請負を使いやすくし、その結果、企業は何とか生き延びたが、非正規社員がどんどん増えた。それでも途上国の追い上げが続くと、万策尽きて、安倍政権は、円安政策(1ドル80円から120円へ)を発動した。世界で競争する時、賃金が3割以上下がった効果が生まれ、企業は一息ついた。

 しかし、今も、120円が110円になっただけで「円高」だと大騒ぎするくらい、日本企業は昔と同じ、コスト競争の能力しかないという状況が続いている。

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