例えば、今年1月までサウサンプトンに在籍したポルトガル代表DFのジョゼ・フォンテ(現ウエストハム)は、ビルドアップ時に無理をせず味方ボランチへ簡単にボールを預け、バックステップで自分の持ち場に戻ることが多かった。あくまでもセーフティーファーストで、自分の持ち場でスペースを与えない。彼のプレーからは、そんな意思が伝わってきた。足技やビルドアップで言えば、フォンテは吉田に劣るが、強固な守備が評価されてプレミアリーグを代表するセンターバックになった。

 こうした「堅牢な守備」や「安定感」の点で、吉田は大きく成長した。

 試合には敗れたが、リーグ杯決勝ではマンチェスター・Uのズラタン・イブラヒモビッチと互角に渡り合った。オン&オフの切替がうまく、「ここぞ」という場面で全力でゴールを奪いに来る元スウェーデン代表を要所で抑え、対峙した場面でやられることはなかった。事実、「なるべくシンプルにプレーしてミスを減らすこと」と本人が繰り返し述べているように、吉田は敵の攻撃をはね返すことを徹底している。

 また、リーダーシップも吉田の持ち味である。リバプールとのリーグ杯準決勝では、経験の浅い23歳センターバックのジャック・スティーブンスに指示を出しながら最終ラインを束ねた。ホーム&アウェイの2試合を無失点に抑え、クラブにとって32年ぶりとなるファイナル進出に貢献した。

 クロード・ピュエル監督も英語を流暢に操る吉田を信頼し、「マヤはもうひとりのキャプテン。昨季レギュラーではなかったが、今季大きく成長した」と語る。主将のファン・ダイクと副主将のスティーブン・デイビスの不在時には、キャプテンバンドを託すようにもなった。

 「強固な守備」と「リーダーシップ」を兼ね備えたセンターバック。それは、まさにジェラードの言う「理想のセンターバック像」である。2012年の入団時に比べると、体つきはひとまわり大きくなり、顔つきも精悍さが増した。ゴールを許しても下を向かず、両手を広げて味方を鼓舞するシーンが増えた。

 プレミアリーグへの適応に時間を費やしたが、控え時代も腐ることなく黙々とトレーニングを続け、ファン・ダイクやフォンテに刺激を受けながらプレースタイルをプレミア仕様に合わせた。結果、センターバックとして一回り成長し、安定感を高めたのである。

 幾多の経験と努力、トレーニングの上に、今の吉田が形成されている。そして、それは現在進行形でもある。「僕はまだ28 歳。これからもっと成長できる」とサウサンプトンの地元紙『デーリー・エコー』のインタビューで力強く語っていたように、今後もさらに進化することだろう。(文・田嶋コウスケ)