シード選手の早期敗退が相次いだインディアンウェルズの傾向は、戦いの舞台を約3,500キロを隔てたマイアミに移しても依然継続中だ。2回戦終了の時点で既に、上位シード32選手のうち、第6シードのドミニク・ティームを筆頭に14選手が姿を消した。そう聞けば錦織の前に道が開けているようにも思えるが、大会やロッカールームに流布する“下剋上の機運”は、錦織にも容赦なく襲いかかる。今季好調でトップ30に返り咲いた実力者のベルダスコも、そのように上位勢を脅かす危険な存在の一人だった。

 優勝するには、6試合(シード選手以外は7試合)を勝ち抜く必要があるこの規模の大会では、接戦をモノにすることで得られる自信が、時に勢いを与えることがある。錦織本人が言うように、少しばかりの「ドロー運」も必要だ。

 今の彼には、その両方が揃ってはいる。しかもマイアミ大会は、彼が14歳から拠点とするIMGアカデミーからほど近い“ホーム”であり、10年前にダブルスでATPツアーデビュー戦を戦った始まりの地でもある。少年時代に、憧れのフェデラーの練習相手を数日に渡って務めたのもここであり、そのフェデラーを準々決勝で破って、大観衆を熱狂させた3年前の夜もある。

 ただドローは見ず、「自分がやるべきことだけに集中している」錦織が目を向けるのは、一試合ずつ勝ち上がることのみだろう。2年越しの悲願成就が、その先にあることを信じて。(文・内田暁)