例えば、ザッケローニ元監督は、試合前日の紅白戦のメンバーは主力組とサブ組をミックスして行い、調子のいい選手をスタメンに起用するが、ほとんどの場合、主力組の選手だった。一方、アギーレ前監督は主力組とサブ組に分けて紅白戦を実施したが、サブ組でもいいプレーをすればスタメンに起用して、選手のモチベーションを高めていた。

 ハリルホジッチ監督は、アギーレ前監督の紅白戦のやり方と同じだが、選手を入れ替えることはない。自身の決めたスタメンには絶大な信頼を置いている。そして、今予選では大島以外にも初出場の選手をスタメンに起用しようとしたことがある。さすがにそれは選手にとって荷が重いと強化スタッフが説得して翻意させたが、選手起用に関しては大胆な発想の持ち主だ。

 長谷部の離脱と高萩の負傷で、この日のボランチ候補は今野しかいなかった。しかし、指揮官は、今野を山口と並べるダブルボランチ、長谷部と同じ役割で守備を固めるのではなく、「G大阪で3試合を追跡してアイデアが沸いた」という、今野が生きる左MFのポジションでさまざまな役割を与えた。

 今野のボール奪取能力とスピードだけでなく、タテへの推進力や、UAEの中心選手であるオマル・アブドゥルラフマンのポジションにもよるが、香川がピッチ中央に落ちてきたら、大胆な攻め上がりで相手ゴールに迫る。後半6分の2点目はそのいい例だ。指揮官は試合後、「ほぼ完璧な試合をして、ゴールも決めた。期待に応えて素晴らしい活躍をみせてくれた。前に置いたのは私のタクティクスです」と絶賛した。

 これら3点が主な勝因だが、今後はさらなる“相乗効果”も期待できそうだ。長谷部の負傷が癒えて復帰したら、今野との併用はどうするのか。今回はケガのため出場機会がなかったものの、高萩という天才肌の選手もいる。

 競争はボランチだけではない。

 試合後のミックスゾーン。12分の出場にとどまった本田は無言のまま足早にバスへと急いだ。胸中が穏やかでないのは西川、岡崎や清武、宇佐美も同じだろう。ロシアW杯という共通の目標で団結した選手が、今度は各ポジションでレギュラー争いを繰り広げることになる。それは、これまでとは違う次元のレベルへと日本代表を押し上げる可能性を秘めているかもしれない。それはそれで、また楽しみでもある。(現地取材=サッカージャーナリスト・六川亨)