BNPパリバ・オープン4回戦で敗れた西岡良仁(右)と接戦を制したスタン・ワウリンカ(左)(写真:Getty Images)
BNPパリバ・オープン4回戦で敗れた西岡良仁(右)と接戦を制したスタン・ワウリンカ(左)(写真:Getty Images)

「次の試合も頑張ります。なにしろ一度負けてる僕には、これ以上失うものは何もないから!」

 そう語る西岡良仁の言葉と笑顔に呼応して、会場の観客たちから、明るい笑い声が沸き起こる。インディアンウェルズ・マスターズの2回戦――。身長211センチ、世界21位のイボ・カルロビッチから、170センチ、70位の西岡がジャイアント・キリングを成し遂げた直後の、熱気と興奮が冷めやらぬコート。インタビューアーから“ラッキールーザー”であることについて水を向けられた時、彼は自分の立場をユーモラスに表現しながら、次なる戦いへの意気込みを口にした。

 ラッキールーザー(幸運な敗者)――それは予選決勝で敗れながらも、欠場選手が出たために本戦に繰り上がった選手を指す。

 今大会に予選から参戦した西岡は、勝てば本戦出場が決まる一戦で、20歳のエリアス・イーマーが執拗に繰り出す中ロブに対応しきれず、苛立ちを募らせ内部から崩れるように破れ去った。

「自分でも、何にイライラしているか分からなくなってきて……」。

 失意と疲れた身体を引きずり会場を去った西岡は、ホテルで身体のケアを受けていた時、何気なく覗いたスマートフォンで、翌日の試合スケジュールに自分の名があることを知る。その後、本戦で4回戦進出の快進撃を見せた西岡にとり、“ラッキー・ルーザー”はまさに、幸運を運ぶ肩書きとなった。

 現在、ランキングトップ100の中で最も小柄な西岡の武器は、俊敏性を生かした守備力と、攻守両面でのミスの少なさ。両親が経営するテニススクールで4歳からこの競技を始めた西岡だが、体格面では幼少期から、友人たちと比べても小柄だった。それでも11~12歳の頃に、全日本小学生テニス選手権をはじめとする数々のタイトルを獲得する。それは彼が意識的に取り組んできた、“ミスしないテニス”で勝つ喜びを見いだし始めた時でもあった。

 ミスをしない選手……というと多くの人は、感情の起伏の少ない人物像を思い浮かべるかもしれない。だが西岡の場合は、無類の負けず嫌いの性格が、自分にミスを許さないため今のスタイルに行きついた。

「ミスした自分が許せなくなる。テニスではミスをするのは当たり前ですが、その当たり前が許せない」。

 プロに転向したばかりの18歳の頃、彼は自分のテニスの“核”についてそう言った。西岡のテニスの礎は、小さな身体と、そこにめいっぱい詰め込んだ負けん気にこそある。

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