日本出身力士としては19年振りに横綱に昇進の稀勢の里(写真:Getty Images)
日本出身力士としては19年振りに横綱に昇進の稀勢の里(写真:Getty Images)

 稀勢の里の横綱昇進で、白鵬、日馬富士、鶴竜の先輩3横綱と合わせ、17年ぶりに「4横綱時代」が到来した。3月12日に初日の幕を開ける大相撲春場所の見どころを、過去の4横綱時代を参考にしながら探ってみよう。

 4横綱時代という言葉からは、4人の横綱がそろって激しい優勝争いを繰り広げ、賜盃をたらい回しにする姿が思い浮かぶ。しかし、現実は甘くない。1場所15日制が定着した1949年夏場所以降、4横綱が番付に名を連ねたのは60場所。そのうち、4横綱とも皆勤したのはわずか10場所に過ぎない。さらに、3分の1の20場所では、大関以下の力士に優勝をさらわれている。直近の17年前の4横綱時代(曙・貴乃花・3代若乃花、武蔵丸)も、4横綱の皆勤は5場所中1場所もなく、横綱が優勝したのは武蔵丸の2場所だけだ。横綱が4人もいれば、下位力士は上位を倒そうと爪をとぐし、横綱同士でも激しく星をつぶし合う。だれかが脱落し、あるいは共倒れしてしまうリスクが高い。4横綱時代は、いわば横綱受難の時代なのだ。

 そんな中、優勝争いの軸になると期待されるのが新横綱の稀勢の里だ。理由は安定感にある。この1年間で優勝こそ1場所だけだが、6場所すべてで2桁勝利を挙げ、5場所で優勝争いにからんでいる。小細工に走らず、強烈な左おっつけを武器に、左四つで右上手を取って前に出る相撲を愚直なまでに磨いて身につけた強さは筋金入りだ。これまで、ここ一番で勝てずに優勝を逃し続けたが、そんな呪縛も念願の初優勝で解けたことだろう。

 優勝するためには、下位に取りこぼさないことが重要になる。要注意は松鳳山。昨年名古屋場所では立ち合いの変化に屈し、優勝した今年初場所は勝ったものの一気に押し込まれて逆転する辛勝だった。思い切りがよく、何をしているかわからない相手だけに、落ち着いて自分の相撲を貫けるかどうか。

 新横綱で優勝を果たしたのは、1場所15日制が定着して以降ではわずか3人だが、そこに大鵬、貴乃花と並んで稀勢の里の前師匠の隆の里も名を連ねている。それも、唯一の15戦全勝だ。師弟揃っての新横綱優勝を、同じく15戦全勝で果たせるかが、春場所のいちばんの見どころといえるだろう。

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