大逆転に歓喜するバルサの選手たち(写真:Getty Images)
大逆転に歓喜するバルサの選手たち(写真:Getty Images)

 スタンドではカタルーニャ“国旗”がたなびく。ピッチでは殊勲者であるセルジ・ロベルトが恍惚の表情で拳を突き上げる。リオネル・メッシは十字を切って神に感謝し、ルイス・エンリケ監督と抱擁をかわす。人々は獣のように声を上げ、抱き合い、感情の渦の中にどっぷりとつかる。誰もが、もてあました気持ちをどう表していいか分からない。“奇跡の箱”カンプ・ノウで、フットボールが爆発した――。

 現地時間3月8日、チャンピオンズリーグのラウンド16。バルセロナ(スペイン)は2試合合計6-5で(0-4,6-1)パリSG(フランス)を打ち破った。4点差をひっくり返したわけで、それは奇跡と呼ぶべきだろう。

 では、なぜ奇跡は起きたのか?

 論理的に答えが見つかるなら、それは奇跡とは呼ばない。

 この夜、バルサはバルサだった。自分たちがボールを握り、動かす。クラブのプレー哲学に殉じ、ボールの前に選手が多く溢れ出し、「リスクを冒す」(ルイス・エンリケ監督)。

 とりわけ、左サイドはアンドレス・イニエスタを軸にネイマール、メッシ、ルイス・スアレスが密集し、プレーが渦を増す。左にパリSGの人を集めることで、右サイドのラフィーニャは遊軍のようにスペースを使う。3分の先制点はまさにこの形だった。左で作って右で自由を得たラフィーニャが切り込み、左足で裏にクロス。これをDFがクリアしきれず、弾んだボールをスアレスが頭でねじ込んだ。

 一方、パリSGも焦ってはいない。ウナイ・エメリ監督は策士として知られる。ファーストレグのようにプレッシングに行かず、セカンドレグはREPLIEGUE INTENSIVO(集中的リトリート)を採用。たとえ負けても1点で息の根は止まる、という割り切った戦い方だった。つまり、パリSGはフットボールを捨てたわけだ。

 一方、バルサはフットボールを御旗に掲げ、ボールを走らせる。

 イニエスタがテンポ、スキルで違いを見せ、フットボールを発動。40分にはネイマールから入ったボールをスルーし、背後のスアレスに入ったところ、追い越して裏で受け、ゴールライン近くでヒールで折り返す。これが敵に触ってオウンゴールを誘った。50分にも左サイド深くにボールを呼び込み、ためを作って身体の向きと逆にパスを出し、裏に走ったネイマールがPKを得る。メッシが決め、3-0と合計スコアで1点差に迫った。

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