大腸癌研究会の会長で光仁会第一病院(東京都葛飾区)院長の杉原健一医師は、次のように話す。

「ガイドラインを適応できる7割は比較的若い人、健康で併存症のない人です。健康な高齢者はこの中に入ります。問題なのは残りの3割です。併存症を持った高齢者、弱った高齢者はガイドラインの治療にあてはまりません。その人には、個々の医師がこれまでの経験をもとに、手術すべきかどうか、ほかの治療法がよいかを判断しているのです」

 長年、全国屈指の大病院に勤め、学会の要職を歴任してきた杉原医師だが、現在は、高齢者が多く集まる東京都内の小規模病院での臨床に従事しており、高齢者の手術に対する問題意識が高まってきたという。

 学会では高齢者に関する演題が増えたが、「高齢でも腹腔鏡手術は安全にできる」といった自施設の症例を検証しただけで結論づける報告が多いのも事実だ。

 また、高齢者と非高齢者の5年生存率の比較は、「他病死が含まれるので意味がない」という考え方も根強い。しかし、がん手術をしたがゆえに、それが引き金となって他病の悪化や機能悪化が起こり、死を早めたとしたらやり切れない。

「エビデンスを出していくことは確かに重要なことです。全国の病院が外科手術のデータを登録するNCD(National Clinical Database)というデータベースがあり、各病院が登録したデータを持っています。それを大腸癌研究会でうまく使えば、プロジェクト研究に生かせるかもしれません」(杉原医師)

(ライター・伊波達也)