いつも笑顔で天真爛漫なイメージばかりが先行するが、恥ずかしがり屋で人の前で話すのは苦手。周囲のことなど気にせず、好きなことを思うがままに言えばいいのに、と思う場面でも、「自分の発言で誰かが傷つくかもしれない」といつも周りを思いやる。

 自分よりも年下の、それこそ大げさではなく「木村沙織に憧れてバレーを始めた」というチームメイトも増えるなか、自身のプレーに歯がゆさを抱くことも少なくなかった。

「東レでも全日本でも『沙織さんなら大丈夫』って思われるのかもしれないけれど、全然そんなことない。あーダメだ、って思うことばかりだし、私、全然大丈夫じゃないんです」

 リオ五輪の最終予選を直前に控えた昨年の5月、大会に向けた合宿の全体練習を終えたあとは必ず1人でコートに残り、実際の試合を想定してホイッスルを鳴らし、コーチが打つサーブをレシーブする。黙々と、自主練習を重ねた。

 それも「自分がやるからみんなも」と強要するものではなく、ただひたすら、自分に自信をつけるため。ピリピリとした緊張感が漂う木村の姿を見て、東レのチームメイトでもあり、リオ五輪にも出場したセッターの田代佳奈美は改めて、凄さを感じた、と言う。

「集中力も表情も全然違う。わかっているつもりでいたけれど、本当に、ずっと世界で戦ってきた人なんだ、と実感しました」

 コートを離れれば、美容の話やオシャレが好きな、ごくごく普通の年頃の女の子だった。だが、世界と戦い続けるバレーボール選手である以上、それだけではいられなかった。表面的なイメージだけを見れば、何も考えていないように取られ、誤解されることも少なくない。でも、コートの中であのパフォーマンスを発揮できたのは、ただ彼女が天才だったからではなく、見えない場所で、ずっと努力を続けてきたから。

次のページ