JRの駅ナカに、いわゆる「コンビニクリニック」を立ち上げた久住英二医師(43)は、新宿駅、立川駅、川崎駅の3駅でクリニックを経営しているが、平日は夜9時まで、土日も診療しているところもある。1日の患者数が千人を超えることも珍しくない。通常のクリニックの患者は30~50人程度だから、桁違いだ。受診者の多くは若年層、特に女性だ。裏返せば、従来の医療提供モデルが、若い人たちに対応していなかったともいえる。この医師のもとには、上海からも医師が訪れている。中国に「コンビニクリニック」を導入するためだ。

 彼らはいずれもリスクをとって、新しい成長分野に飛び込んだ。冒頭の若き医師夫妻には、まぶしく映ったそうだ。彼らは「自分のやりたいことをするのではなく、患者のニーズを追求しなければならない」という。

■従来の「お医者様」は、もう通用しない

 前述のとおり、アジアでは医療の熱が高まっている。

 例えば、知人の上海在住の女性からは「上海で働きたい医師を紹介してください。最近、共産党は規制を緩和し、一部の民間病院で外国人医師が診療できるようになりました」と言われた。韓国やフィリピンから、医師・看護師が流入し始めているらしい。彼らはハングリーだ。もたもたしていると、日本の医療レベルのリードなど、あっという間に追いつかれてしまう。

 臨床研究でも、アジアが主戦場になりつつある。ある東大医学部の教授は、個人的見解として「アジアからの論文は掲載されやすい」という。

 医学専門誌の発行でも、アジアは市場を拡大している。部数がほとんど伸びない先進国とは対照的に、販売増が期待できる。

 私たちの研究室も、中国や東南アジア諸国との共同研究を始めた。その成果を「ランセット」などに投稿し、これまでに四つの短報が掲載された。これは、通常の採択率をはるかに上回っている。研究室では毎晩のように、スカイプでアジアの若き医師や看護師と共同研究の打ち合わせが行われている。

 多くのアジアの都市は、東京から3~6時間で移動できる。「毎週、通うのも可能です」と意気込む若手スタッフもいる。

 かくのごとく、日本の医療は急速に変化しつつある。その本態は、グローバル化だ。激しい競争が待ち受けるなか、従来のような「お医者様」は通用しない。これから医師を目指す若者たちには、ぜひ、このことを念頭に置いてほしい。

(アエラムック『AERA Premium 医者・医学部がわかる』に寄稿)