駅前には居住者のいない投資用マンションが並ぶ
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 さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第21回は中国のラサ駅から。

*  *  *

 まるで中国という国家の威信を示すかのような駅である。1番線のホームは、5車線道路ほどの幅がある。

「戦車でも走るんじゃないの?」

 列車で一緒になった香港人が小声でささやいた。

 しかしこの駅で行われていることを体験すると、彼のジョークも笑えなくなる。

 改札口でパスポートと切符を見せると、職員から脇で待つように指示された。香港人も同じように改札脇に立たされる。そこには、すでに5人のチベット人がいた。

 ラサ駅は、チベット自治区の中心的な駅である。それなのに改札を自由に通ることができないチベット人がいる。その脇を漢民族はフリーに通り抜けていく。これがラサ駅だった。

 僕ら8人ほどは、別棟に連れていかれた。そこでチェックがある。

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下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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