クラブでレギュラーを確保し、代表入りへ期待がかかる乾貴士。(写真:Getty Images)
クラブでレギュラーを確保し、代表入りへ期待がかかる乾貴士。(写真:Getty Images)

 欧州でプレーする日本人選手は、不条理に立ち向かう必要がある。異国での戦いは一筋縄ではいかない。それを奮闘によって乗り越えたとき――。

 我々は心から感動を覚える。外国人として主力を張るのは、簡単なことではないのだ。

 今シーズン、ここまで日本人として誇るべきキャリアを過ごしている選手は、長谷部誠(フランクフルト)、乾貴士(エイバル)、酒井宏樹(マルセイユ)の3人だろうか。

 長谷部に関しては、とにかく歩いてきた道のりが瞠目に値する。ドイツでプレーして11年目。彼はその堅調さと聡明さによって、常に自らの道を切り開き、広げ、そこへ同胞の選手たちを誘ってきた。ブンデスリーガでこれだけ多くの日本人プレーヤーが活躍できるようになったのは、長谷部の評判が良かったからだ。

「長谷部は勤勉で責任感がある選手で、戦術レベルの高さが際立っている」

 欧州のスカウトたちは、賢さ=柔軟性を絶賛。今シーズンの長谷部は、リベロ(センターバック)として新境地を開いているが、これまでも、ボランチ、右サイドバック、トップ下とユーティリティ性を示してきた。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いる日本代表でも、チームメイトを補完し、引き立たせる動きに非凡さが見える。代表でなくてはならない存在は、本田でも香川でもなく、長谷部だろう。

 一方、乾は代表に選ばれて然るべき選手である。世界最高峰リーガエスパニョーラでレギュラーを得る、それは初の偉業で、中村俊輔や大久保嘉人ですらなし得なかった。ほとんどの日本人選手が数試合のみ、わずか半年から1年の在籍で撤退していったのだ。

「乾は守備の強度やポジショニングが改善した」と関係者も評価。ボールを持って前を向いたときの迫力も増し、スタジアムを沸かしている。あとは、フィニッシュの精度を向上させることか。ともあれ、今シーズンの乾はヘルタ・ベルリンの原口元気に優るとも劣らない。

 酒井宏樹は名門マルセイユでの1年目にかかわらず、定位置を勝ち取っている。これがどれほどの快挙か。フランスリーグはアフリカ系の選手が多く、想像以上にフィジカルコンタクトがタフなリーグ、連戦だと柔な選手はがくりと力が落ちるのだが――。酒井宏が1シーズンを戦いきったら、相当な戦闘力を身につけられるだろう。

 欧州リーグの後半戦は、内田篤人(シャルケ)、武藤嘉紀(マインツ)の二人が本格的に復帰となる。不振が伝えられる選手も、巻き返すに違いない。

 そして彼らの活躍は希望となり、日本サッカー全体に伝播するのだ。(文=スポーツライター・小宮良之)