外から見ている限り、猶本は、天才というよりは秀才。物事の本質を突き詰めながら、一歩ずつ前進していくタイプで、ポンと飛び込んですぐに結果を出せるほうではない。実際、アンクラスのトップに加わった時も、浦和に移籍した時も、環境に馴染むまで時間を要している。北京五輪の前から10年近くの歳月をかけて完成の域に達していたチームへ、1年ちょっとで割って入れというのは、酷な話だった。

 猶本がプレーするボランチは、自力でどうこうできる部分が少ないポジションだ。持ち味であるピッチを広く使ったゲームメイクも、ダイナミックな攻撃参加も、周囲との連携が大前提になる。不幸なことに、これまで猶本がプレーしてきた年代別代表と佐々木則夫監督のフル代表に、約束事の共通項は少なかった。猶本以外の“2012ヤンなで”同期の多くも同じ問題に悩まされ、例外は、リオ五輪予選で間に合ったFWの横山久美(AC長野パルセイロ・レディース)くらいだ。

 大方の予想通り、2015年のFIFA 女子W杯カナダ大会のメンバーリストにその名前はなかった。雪辱を期した昨年も、リオ五輪予選を前にした選考合宿に参加したが、予選を戦うメンバーからは漏れている。大阪で五輪予選が行われている同時期に、猶本はラ・マンガ国際トーナメントに派遣されるU-23日本女子代表の一員として、スペインへ向かった。

 リオ五輪予選に臨んだなでしこジャパンは、オーストラリア、中国の後塵を拝し、2勝1分け2敗の3位。本大会出場を逃した。その責任をとる形で佐々木監督が退任。後任に推されたのは、ラ・マンガ国際に臨んだ猶本らU-23日本女子代表を率いた、高倉監督だった。

 なでしこジャパンが予選で苦戦を続ける中、U-23女子代表は、同年代のノルウェー、スウェーデン、さらにドイツ(20歳以下の選手で構成されていたが)を相手に3連勝を収めていた。高倉監督は、この大会で見せた猶本のパフォーマンスと、そのパーソナリティを、直接、把握している。昨年6月のアメリカ遠征、7月のスウェーデン遠征では声がかからなかったが、これは負傷を抱えてプレーしていた猶本のコンディションもあってのこと。このタイミングでの招集は単なるテストではなく、よりポジティブな意味合い、つまり、これからのなでしこジャパンを背負って立つひとりと期待しての選出だろう。

 さらに、2014~15年当時とは状況も変化した。大きく入れ替わったメンバーには、年代別代表で共に戦った横山久美(AC長野パルセイロレディース)、田中美南、中里優(いずれも日テレ・ベレーザ)、京川舞(INAC神戸レオネッサ)、高木ひかり(ノジマステラ神奈川相模原)、さらに浦和の同僚・池田咲紀子ら、顔なじみも多い。コンビネーションで不安を感じる点は少なく、追い風が吹いていると言えよう。合宿に参加した本人も時節到来を感じているのか「年齢的にも代表に定着していかなければいけない」と意欲的なコメントを残している。

 2年後の女子W杯フランス大会、そしてその先にある2020年東京五輪に向けて、ようやく真のスタートラインに立った猶本光。高倉監督率いる新生・なでしこジャパンと共に、どんな活躍を見せてくれるか。要注目だ。(文・西森彰)