さらに、食べ方もわからない。皿の横にはナイフとフォークが添えられているが、切って食べるのだとすれば、どこから手をつければいいのか見当がつかないのである。途方に暮れていると、スタッフの方が「包み紙を使って手で食べるのがおすすめです。かぶりついていただくと、具材の味が一度に楽しめます」とアドバイスをしてくれた。

 可能な限り口を開け、かぶりついた。おそらく500円分くらいのトランプバーガーを、1度、2度、と咀嚼するうちに、これまで体験したことのない出来事が起きた。

 思考が停止するのである。

 まずトリュフの官能的な香りが鼻を抜けていく。続いてフォアグラの重厚な脂が口の中を満たし、レアに焼き上げられたなめらかなパテがその脂と混ざり合う。そこにりんごのコンポートのこれまた重厚な甘みとバルサミコ酢のソースが主張を始め……と、このあたりで口の中で何が起きているのかわからなくなるのだ。

 おそらくそれぞれの具材がおいしすぎるため、人間が受容できるおいしさの限界を超えてしまい、結果として脳が混乱するのだと考えられる。まさに暴力的なまでのうま味の主張。トランプ新大統領をイメージしたハンバーガーとのことだが、もしも彼が口の中に飛び込んできたら、こんな感覚になるのではないか、と思わせるに足る味わいだ。高級素材を惜しみなく使用している点も、彼のゴージャスなキャラクターと合致している。看板に偽りはない。

 だが、料理としてはどうか。噛むたびに「じゅっ」と染み出すフォアグラの脂の味わいは実に見事で、これが上質なフィレ肉と混ざり合っていく感覚は背徳的なほどの快感だが、あまりにも濃厚すぎるため、人を選ぶのは事実だろう。むしろ体験としては、食事というよりも、バンジージャンプやジェットコースターに近い。5800円という値段は賛否が分かれるところだが、「未知の体験ができる」という観点においては、それだけの価値はあると感じた。
 
 その名を冠したものならハンバーガーでも賛否がわかれるのも、トランプ新大統領らしいといえるかも!?(ライター・小神野真弘)