安達氏によると、そのカギは、実は中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が握っているという。マクロ経済の基本的な原理では、金融政策が「引き締め」局面のまま財政拡大を行うと、金利上昇と通貨高を招くとされている。これはせっかくの財政政策の効果を大きく削減してしまう。それを回避するには、中央銀行による国債購入と実質金利の引き下げが必要なのだ。

 そこで問題になるのは、現在FRBが採用している金融引き締めの路線だ。つまり、今後FRBが「利上げ路線」を変更し、国債購入によって長期金利の上昇を抑えるような政策に転換するかどうかが、トランポノミクスの成否の見極めどころになる。安達氏は、2017年のどこかのタイミングでFRBが再金融緩和に動くときが来るのではないかと予測している。

 こうしてアメリカが復活に向けて進んでいくとき、日本にはどのような影響があるだろうか。

 もし今後、トランポノミクスの実行によってさらなる円安ドル高が進行した場合、アメリカは円安の是正を求めてくるかもしれない。それに対してはアメリカとの財政政策の協調を意識して、日本も財政拡張を行うことが、行き過ぎた円安ドル高を止める方策になる。

 他方、前述のように、もしどこかの段階でアメリカが金融緩和に転じ、利上げ路線を放棄した場合、逆に急激な円高に転換すると推測される。このとき日本がとりうる措置として、ドル買い円売りの為替介入という手もあるが、トランプの通商・貿易政策の手前、それは難しい。

 そこで、日本銀行による追加緩和しかないだろうと安達氏は予測する。つまり、今後日銀が国債購入量を減らす「テーパリング」や、マイナス金利の廃止といった選択肢をとる可能性はきわめて低いということだ。

 一見すると日本がトランポノミクスに振り回されるように思われるかもしれないが、このような金融政策と財政政策の組み合わせは、実は経済学の新しい流れにも適合しているという。経済の長期停滞に陥った国がそこから脱却するためには、金融政策と財政政策を同時に緩和スタンスに変えることが重要であるとされているのだ。

 これを日本経済に適用することが、アメリカにとってのドル高円安を回避するというだけでなく、日本経済をデフレから脱却させるという意味で非常に重要であると、安達氏は指摘する。日米の経済政策の協調、それがトランポノミクスの波に乗り、日本が長年苦しんできた不況を打ち破るための希望なのかもしれない。