初戦からフルセットの苦戦を強いられるも、持ち前の勝負強さで勝利を収めた錦織圭。(写真:Getty Images)
初戦からフルセットの苦戦を強いられるも、持ち前の勝負強さで勝利を収めた錦織圭。(写真:Getty Images)

「本当にタフな試合だった。勝てて嬉しい」

 1月16日に開幕した全豪オープンの初戦、フルセットの激闘を終えた後、錦織圭の表情にはぬぐいきれない疲労と、試合中に感じていたフラストレーションの残滓が見て取れた。実際にその点を尋ねられると、「4セットで終わらせるべきだった。だからリラックスする必要があった」と認めている。とはいえ厳しい接戦を制したことに安堵したというよりも、「第5セットには集中して臨み、良いプレーが見せられたと思う」と語ったように、重圧に打ち勝ったエリートプレーヤーの矜持も垣間見せた。

 今大会のドローは錦織にとって、極めて過酷な道のりとなった。順当にいけば、4回戦以降、ロジャー・フェデラー(スイス)、アンディ・マリー(イギリス)、スタン・ワウリンカ(スイス)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)と、優勝候補との連戦を強いられることになる。もちろん、それは順当に勝ち進んでいければの話であり、今日の初戦では早くもそうした先々の予想が無駄になる危険にさらされた。

 相手のアンドリー・クズネツォフ(世界ランキング45位/ロシア)は昨年に大きな成長を見せた一人で、ランキングは一時、過去最高の30位代にも到達。特に全豪では自身のグランドスラム史上最高となるベスト16に進出した。その後の全仏とウィンブルドンではどちらも錦織の前にストレートで敗れたとはいえ、錦織はいずれの試合もスコア以上に難しい試合を強いられており、この日の1回戦も世界ランキング5位の日本人選手にとって侮れない相手だった。

 そして試合では、挑戦者に1セット目を5‐7で奪われて先行される。第2セットでは錦織がギアを上げて6‐1でモノにし、次のセットは先にブレークされながらも6‐4で連取。第4セットではまたしても相手に最初のブレークを許し、そこから4ゲームがブレークの応酬となる先の見えない展開となり、タイブレークに持ち込まれる。ここでは錦織が5‐2とリードし勝利まであと2ポイントに迫ったものの、そこからクズネツォフに4連続でポイントを奪われ、最後はコードボールからの展開でポイントを落とし、勝負は最終セットに委ねられた。相手の深い強打に押され、自分の形に持ち込めない錦織が、苛立ちを募らせるシーンも散見された。

 しかし、最後はやはり格の違いを見せつけた。ATPツアーにおける最終セットの勝率は7割6分9厘(130試合100勝)と、歴代トップの記録を誇る錦織は、あらためて集中し直してひとつ上のレベルのテニスを展開。とりわけ第3ゲームの頭から9ポイントを連取し、第4ゲームをラブゲームでブレークしたことが大きかった。最後は相手のダブルフォールトで勝利を収め、ジェレミー・シャルディ(フランス)の待つ2回戦へと駒を進めた。(文・井川洋一)