■手術後2時間で歩くことも可能に

 PED法ではまず患者に部分麻酔をかけ、先端に超小型カメラがついた直径8ミリほどの管を背中に入れる。モニターに映し出される映像で患部の状態を確認しながら、管に鉗子を入れる。鉗子を右手で動かし、神経を圧迫している髄核にたどり着いたら、慎重に取り出していく。

 管の先端からは生理食塩水が出るため、視界不良が起こりにくい。また局所麻酔なので患者と会話ができ、神経症状の有無を確認しながら進められる。

 手術はおおむね1時間~1時間半で終わる。個人差はあるが、術後2~3時間で歩くことができ、翌日には退院できる。日帰り手術も可能で、保険も適用される。ヘルニアで車椅子を利用していた人が、1週間後にはゴルフを再開したというケースも珍しくない。

 読売巨人軍の高橋由伸監督が現役だった09年、ヘルニアに苦しみ、出沢医師のPED手術を受けた。翌年、見事に復活を果たし、打席に立ち続けた。

サッカーJリーグの選手もみえます。トップアスリートは手術で日常生活ができるようになるだけではだめで、95%以上回復させなければいけない。だから余計に緊張します。術後のリハビリを経て、復帰されたときは感慨深いです」
 PEDは術後の再発率が低いのも大きな特徴だ。ヘルニアは手術後、5~10%は再発すると言われている。椎間板には再生する力がなく、手術をした痕はふさがらない。穴が開いている状態なので、いずれ髄核が再び飛び出してくる。しかしPEDなら、穴は8ミリほどと小さいので、再発率も当然低い。「3%ほど」(出沢医師)だという。

 手術は多いときで1日4件。これまでの手術数は2600例を超えた。

「PEDの超小型カメラはまるで虫の目です。体内の様子が大きくアップで映しだされる。一方、その映像を元に病態全体をイメージし、手術を進めていきます。患者さんを俯瞰(ふかん)している感じなので、こちらは鳥の目といえるでしょう。手術では両方の目を駆使しています。全神経を集中させているので、終わった後はぐったりです(苦笑)」

 従来のヘルニア治療に画期的な進歩をもたらしたPED。難点は高度な技術を要することだ。ミリ単位の手先の動きが要求されるため、できる医師は全国でも約25人と少ない。出沢医師は専門の学会を発足させて勉強会を開くなど、技術の伝達にも力を入れている。

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