ナルバエスを倒しWBO世界スーパーフライ級タイトルを手にした井上尚弥。30日に4度目の防衛戦に臨む。(写真:Getty Images)
ナルバエスを倒しWBO世界スーパーフライ級タイトルを手にした井上尚弥。30日に4度目の防衛戦に臨む。(写真:Getty Images)

 日本では恒例となった年末のボクシング世界戦ラッシュ。全世界を通じてビッグファイト枯れになるこの時期、重要なタイトル戦が行われるのはほとんど日本だけである。そんな背景から、最近では筆者が住むアメリカの関係者、ファンの目も日本のリングに向けられるようになった。今年は特に、井上尚弥、内山高志、井岡一翔のタイトルマッチには世界的な注目が集まりそうである。

■12月30日 有明コロシアム
WBO世界スーパーフライ級タイトル戦
井上尚弥(大橋)対河野公平(ワタナベ)

 「あのイノウエという選手は素晴らしいな。(試合が行われたのは米東海岸では)早朝の時間だったけど、目が覚めるようなKOだった」

 2014年の年末に行われた井上対オマール・ナルバエス(アルゼンチン)戦後、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで行われた興行にて、顔見知りの記者から盛んにそう呼び止められたのが忘れられない。「君の国からも凄いのが出て来たな」といった褒め言葉をどれだけ聴いたか。

 あれから早くも2年。井上は勝ち続けてはいるが、拳、腰の故障もあって、ナルバエス戦と同等のインパクトは生み出せていない。それでも4階級制覇王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)とのスーパーファイトがアメリカでも話題になることが、日本が生んだ“モンスター”のスター性の証明なのだろう。

 4度目の防衛戦の相手の河野公平(ワタナベ)は、昨年10月にシカゴで亀田興毅を破ったことがある。おかげで日本国外での知名度も多少はあるだけに、アピールのチャンスだろう。KO負けはゼロというタフネスを誇る先輩王者を井上がストップできれば、インパクトは莫大。ケガの不安を吹き飛ばし、ナルバエス戦に続き、海の向こうのボクシングファンも再び唖然とさせるパフォーマンスを望みたいところだ。

■12月31日 大田区総合体育館
WBA世界スーパーフェザー級タイトル戦
ジェスレル・コラレス(パナマ)対内山高志(ワタナベ)

 「私は内山の能力を高く買っている。ニコラス・ウォータースよりもずっと評価しているし、起用してみたいと願っているくらいだ」

 2015年の年末ごろ、アメリカのボクシング界で最大の影響力を誇るメガケーブルテレビ局『HBO』の重役がそう述べていたことがあった。

 今年11月まで無敗の進撃を続けたウォータース以上の評価とは、日本人記者に対する社交辞令ではあるまい。“KOダイナマイト”と呼ばれる内山は、ただ勝つだけではなく、試合内容で魅せられる選手。分かり易いファイトができるパンチャーは、以前から米リングへの登場を待望される存在だった。

 悪夢のようだった今年4月27日、ジェスレル・コラレス(パナマ)に痛烈な2ラウンドKO負けを喫し、内山はWBA世界スーパーフェザー級王座から陥落。この時点で海外進出の夢も霧散してしまった。

 ただ、内山のパワーと無骨なキャラクターが依然として魅力的なことには変わりはない。もはや主役扱いは難しくとも、ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)、フランシスコ・バルガス、オルランド・サリド(以上メキシコ)、ホゼ・ペドラザ(プエルトリコ)、ジェイソン・ソーサ(アメリカ)といったスーパーフェザー級の強豪の相手役として、十分な実績を誇る内山が再び注目される可能性は十分にあるはずだ。

 本場での楽しみなビッグファイトを実現させるために、コラレスへの雪辱、タイトル奪還は最低条件。ここで商品価値を回復させれば、内山の存在感が改めて世界中から見直される。そういった意味で、12月31日のリマッチは、雪辱とともに、近未来をかけた一戦と呼んでも大げさではあるまい。

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