リスク耐性のない人は、預金だけでもかまいません。ただ、定年世代に重要なのは、インフレに負けない購買力の維持です。インフレに備えたいと考える人が土台として低リスクの運用商品を持つなら、10年変動金利型の個人向け国債、17年から10万円単位で買えるようになる物価連動国債が候補になります。

 投資では、税金と手数料というコストをいかに抑えるかも重要です。投資によるリターン(収益)は不確実です。しかし、コストを抑えることは確実にプラスに作用します。金融商品の収益が非課税となる少額投資非課税制度(NISA)などを活用するのもおすすめです。

 投資にはさまざまな方法があります。今まで投資の経験がない人であれば、グローバル分散投資を低コストの投資信託の積み立てで臨むのが無難でしょう。長期投資がよいとされるのは、あくまでも期待リターン(過去の実績から推測される平均値)がプラスの市場の場合のみです。将来どの国の市場の期待リターンがプラスになるのかわからないなら、世界経済全体をパッケージにして投資する商品が向いているというわけです。世界の経済規模や市場の時価総額に応じた割合で分散投資する投資信託など、1万円単位で購入できる商品もあります。

 私自身、一度にまとまったお金で金融商品を買うことはありません。証券会社で運用の仕事をしてきましたが、今もなお、毎月一定額、グローバル分散投資できる低コストの投資信託をこつこつと積み立てています。

 リーマン・ショックは「100年に一度の危機」とよくいわれますが、実は大きな経済ショックは世界中でしばしば起こっています。その意味でも地域や時間の分散投資は有効です。そして大切なのは、市場や経済に大きな変化があっても騒ぎや不安に惑わされないこと。どんな時代にも通用するお金の基本ルールや知識を身につけ、長期的な視点で運用するのが、お金を増やす王道であり近道なのです。

※週刊朝日MOOK「定年後のお金と暮らし2017」より