そんなフレキシブルな方向に向かったカブスにとって、安価で、経験も豊富な上原は願ってもない存在だったはずだ。

 ケガの多さは気になるが、今季も上原は9月7日に右胸筋痛からカムバック後、11イニングを投げて6安打無失点、プレーオフでも2イニング零封とほぼ完璧な内容だった。右投手ながら、左打者をメジャー通算打率.183、OPS.555に抑えてきたのも好材料。来季はクローザー役が予定されるデイビスも今季はケガで苦しんだだけに、抑えでも実績がある上原が背後にいるのは心強いに違いない。

 実力通りなら、カブスは来季もかなりの確率で優勝争いに絡んでくるだろう。2013年にはレッドソックスの世界一に大きく貢献した上原が、シカゴでも秋の大舞台のマウンドに立つ姿を想像するのは難しくない。

 そして…カブス首脳陣の頭にあるのは恐らく来季だけではあるまい。レッドソックス、カブスを世界一に導いた如才なきセオ・エプスタイン球団社長は、すでに2018年以降のチーム作りにまで思いを巡らせているのではないか。

 2017年終了後、アリエッタ(来季年俸は調停で恐らく1500万ドル以上)、ラッキー(来季年俸1600万ドル)、デイビス(同1000万ドル)、ジェイ、上原らがすべて契約切れを迎える。給料総額が大幅に削減され、再びの大型補強も可能になる。シナリオ通りなら、1年後、カブスは大谷翔平の争奪戦に全力で挑んでくることも十分に考えられるのだ。

 “ヤギの呪い”を解いたカブスは、一時代を築けるロースター作りの過程にいるのだろう。今オフに獲得されたデイビス、ジェイ、上原といった1年契約のベテランたちは、来季の重要な戦力であるとともに、近未来への橋渡し役も担っているのかもしれない。(文・杉浦大介)