ロシアは2014年のウクライナ危機を受けた欧米による対ロ制裁を背景に、「東方政策」を推し進めている。具体的には、欧州ではなく極東に友好国や経済的な市場を追い求めていくという外交方針で、特に中国との関係強化を志向、歴史問題や南シナ海の問題においても中国を支援する外交を展開している。

 そうした中ロの友好関係を印象づけるように、2014年5月、ロシアが2018年から30年間にわたり年間380億立方メートルの天然ガスを中国へ供給する契約を正式に締結している。

 しかし、エネルギー価格の急落もあってか、いつまでたっても中国側からのアクションがない状況が続いていた。そこで業を煮やしたロシアは、日ロ関係改善を進展させるという作戦に出る。すると日本とロシアの関係改善を恐れた中国が、それまで止めていた数々のプロジェクトを進め始めたのだ。

 こうした対中外交のカードとしての対日外交という観点から考えると、北方領土問題解決に向けてのロシア側の短期的な動機が見えてくる。つまり、この領土問題解決が対中外交のかませ犬となっている可能性があるというわけだ。

 このように、ロシアにとっての北方領土問題解決の動機は非常に心もとない。であるならば、話し合いが可能なうちに妥協して、二島返還で手を打とう。そう思いがちだ。しかし、長期的な安全保障というロシア側の動機に立つと、必ずしも日本にとって北方領土問題を含む対露外交は、時が経てば経つほど向かい風になるような問題ではないといえる。

 北方領土四島はれっきとした日本の領土であり、大義名分は日本にある。放棄などの必要は全くなく、じっくりとその解決に取り組んでいくことで、柿が熟して落ちていくように、元の鞘にすっと収まっていくものだ。

 ロシアはこれからの多極化世界の一角を担っていく国として、アメリカ撤退後の中東でのエネルギー安全保障の点でも、ますます日本にとっての重要な隣国となっていく。その分、アメリカがそうであったように、ロシアは多方面で敵も多く作っていくと想定される。

 今回のように、経済的な対ロサポートなどを行うことで、日本のロシアにおけるプレゼンスを高めていくことも重要だが、さらに重要なのは、ロシアに対する日本の存在感を高めていくことだ。

 北方領土問題でロシアが妥協してもいいと思えるような、極東におけるパートナーとしての立ち位置を、日本が獲得できるようにしていくことが日ロ間の良好な関係を作っていくことへの近道であると塚口氏は言う。

 そういう時のために、二島返還だけで妥協せずに、もう二島返還も協議を続行できるような在り方を模索してもらいたいと切に願っている。