「私の指示は明確だった。ファウルをするな、と」

 バルサのルイス・エンリケ監督は試合後に虚しげに語ったが、それは守られなかったわけだ。

 今シーズンのバルサは、メッシ依存が顕著になった。桁外れの能力があるだけに、全てのボールをメッシへ、という依存が生まれ、結果として中盤でのパスワークが雑になっている。この日も、故障明けのイニエスタが入るまではビルドアップにもたつき、無理矢理、長いボールを入れた。エンリケ監督は何の手も打てていない。

 バルサの強さの根幹が揺らぎつつあるのか。

 一方、欧州王者マドリーは「勝者のメンタリティ」を見せつけた。チームとしての綻びは、実はバルサよりもある。イニエスタが加わったバルサには、太刀打ちできていない。しかしそれでも負けない不屈さを、終盤に証明した。FKに至るプレーの前にも、マルセロが左サイドからファーポストのクリスティアーノ・ロナウドに通したシーンは際どかった。その圧力が、ファウルも誘発させた。

「勝利の味がする引き分け? これは勝ち点1で、勝ち点3ではない。ただ、良い勝ち点1ではある」

 ジダンの口にする言葉は、変哲もないのに重みがある。(文=スポーツライター・小宮良之)