膝の痛みさえ消えて、十分な滑り込みを行えば、シーズン後半に向けて今まで通り調子を上げていける――。その確信が瞳のなかに見えた。

 そして一夜明けてから語った言葉が印象的だった。

「トリプルアクセルは、今までは練習で跳べていても跳べていなくても、試合で挑戦しているジャンプでした。それはやはり、自分のモチベーションを強く持てる部分があったから。でも今、トリプルアクセルを挑戦して良いかどうかは分かりません。えっと、ハーフハーフです(笑)」

 そう言うと、自らあえて使った“ハーフハーフ”のフレーズに、クスッと笑った。代名詞であるトリプルアクセルへ執着しなくなっている自分を、まだ正面から受け止め切れていない状態なのだ、ということが読み取れた。

 そしてこう続けた。

「あと2年、楽しもうと思っています。エキシビションも、本当は6位だと出られないけれど選んでいただいた。これは私のカウントダウンになって来ます。1つ1つの試合、それはエキシビションだとしても、良いプログラムを皆さんにお見せできるようにという気持ちで滑っています」

 浅田自身は、長年の練習過多が原因である左膝痛と付き合っていかなければならない26歳の現実を、誰よりも分かっている。勝敗や点数だけを目標に掲げることはベテランの戦い方ではないことを、あえて自分に納得させるかのような語りだった。

 しかし根っからのアスリート。心の奥には、挑戦心が溢れている。

「次のフランス杯はトリプルアクセルも『3回転+3回転』も入れるくらいの勢いで練習していかないと、と思います。練習でもまずまずの所までは来ているので、とりあえずは間に合うように練習していきます」

 そう言うと、少し引き締まった表情になり、うなずいた。

 今季もまだシーズン序盤。11月のフランス杯、12月の全日本選手権を超え、シーズン後半にむけた長期プランのなかで浅田は戦っている。芸術的なプログラムで自身を成長させることは、まずは今季の最初のステップ。そしてその先にはやはり、彼女が最後に目指す、芸術もジャンプもすべてが揃った楽園が待っているのだろう。(文・野口美恵)