リオ五輪での400mリレー銀メダルをはじめ飛躍の1年を過ごし、9秒台への手応えを得た山縣、桐生、ケンブリッジ。(写真:Getty Images)
リオ五輪での400mリレー銀メダルをはじめ飛躍の1年を過ごし、9秒台への手応えを得た山縣、桐生、ケンブリッジ。(写真:Getty Images)

「いつ誰が出してもおかしくないところまできている」

 9月上旬、中京大陸上競技部監督の青戸慎司氏が、実感たっぷりに話した。

 リオ五輪男子400mリレーの銀メダルまで目の当たりにし、指折りの陸上指導者がそう指摘するのは、むろん男子100mにおける日本人初の9秒台のことだ。

「〈10秒00の壁〉が破られる日は近いのか」という命題は、2013年春に桐生祥秀が10秒01を出して以降、常に意識されてきた。だが、あれからかれこれ4シーズン。レースのたびに期待されながら、いまだ実証されずにいる。「今度こそ」というフレーズはすでに何度も唱えられ、そのたびに外野のヤキモキ感は募っている。

 10月8日に岩手県北上市で行われた国体の陸上では、山縣亮太とケンブリッジ飛鳥が今季最終戦として出場する予定となっていたが、ケンブリッジは予選を前に棄権。山縣も予選を走ったあとに棄権を表明し、今年も9秒台の実現はならなかった。

 しかし、2016年シーズンを戦った今。10秒2台に最初に突入した青戸氏の直感が教えるように、〈壁〉にしっかりと手を触れた段階に「今度こそ」入ったと言ってよい状況が生まれている。

 9秒台を巡って競い合うのは、山縣、ケンブリッジ、そして桐生の400mリレー銀メダリスト3人。

 山縣は今季、10秒0台を4回、うち自己記録更新3回という、高いレベルでの安定感を発揮して見せた。リオ五輪でも自らの持っていた日本人五輪最高を100分の2秒更新して10秒05。9月下旬には10秒03まで記録を伸ばした。

 ケンブリッジは5月に自己記録を10秒10まで伸ばし、山縣、桐生との3強対決となった日本選手権100mを初制覇。リオ五輪の100mも、準決勝で昨年の世界選手権銀メダリストであるジャスティン・ガトリン(米国)の弾丸スタートに慌てた面があったが、予選では自己記録が9秒86の選手を抑えて2着に入る強さを見せた。

 桐生の16年は、3位に敗退した日本選手権での号泣があり、リオ五輪も3人のなかで唯一の予選落ちという悔しさを味わった。だが、400mリレーの走りは、実質9秒台圏内と言える爆発力で、むき出しの本能がほとばしっていた。6月には自身2度目の10秒01も記録した。

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