慌てて小川さんが手を挙げた方向を見ても、もう私には、誰が誰だかわからない。ターレに乗る小川さんを見つけたお客が、小川さんに向けて指で3を作って指し示す。小川さんもそれに応じて、片手の指で3を示し、受注の確認をしたのだった。

「手を挙げてあいさつしたのではなくて、『3つ』だったんですね」と話しながら、私が親指から中指までの指を立てると、小川さんはにっこりと笑った。

「それだと8なんです。築地での指での数え方は、セリと一緒。3はこう」

 小川さんはそう話しながら、親指と人さし指をたたみ、残った指を立てた手を私に向け、「築地の『3』」を説明してくれた。

 耳と目を澄まして要望に応じ、受け答えはほんの一瞬で交わされる接客は、市場ならではだと私は思う。小川さんの発泡の接客にもやはり、「築地」を感じた。

 一方通行の木箱が、魚が揚げられた港町と築地とを往復する通い箱となり、発泡となってまた再び使い切りとなった魚の容器は、これからどうなっていくのだろう。

「3R(再利用・資源として再生・廃棄物削減)って言葉がありますよね。私たちの現場では、それを業務とする環境にはなっていませんが、時代が(それを)必要とすれば、私たちもそれに応じていくことになるんだと思っています」

 原社長はそう話しながら、循環型の資源活用について書かれた資料に目を落とした。

 築地必須の「ハッポウ」は、これからも、魚とともに市場の歴史を紡いでゆく。