「最初は発泡の種類を覚えるだけでも大変でした。電話で注文が入っても、お客さまが何を言っているのかわからなかったこともありました」

 入社して1年目の伊藤さんが、そう話すのも無理はない。倉庫には、大きさも形状も異なる50種類を超える発泡が山積みになっている。この真っ白な発泡の山を前にして、瞬時に種類を見分けられるようになるには、相当の経験が必要だろう。

 私は当初、よく使われる発泡のサイズは、ある程度決まっているのだと思っていたが、実はそうではないらしい

「売れ筋は『20』と呼ばれる箱ですが、『クール便で送れる一番大きいのを欲しい』といった注文のされ方もあります」

 入れる魚や送り先によって、求められる発泡のサイズが異なることに納得。また、それぞれの発泡には「A-170」や「B-10」といった正式な商品名があるが、特定の発泡のなかには「ハマチ13」などといった通称があることも、私は知った。

 築地市場内には、数カ所のごみ処分場があり、繁忙時には人の背の2倍ほどの高さにまで発泡が積み上がる。中にはまだまだ使える新しい発泡もあるため、必要なサイズを拾いに来る人も多い。

 大型トラックで魚が運ばれてくる際にも、発泡が使われている。通い箱のように返却の必要がないため、セリ落とされ、購入された魚が入れられる容器として、そのまま仲卸でも使われている。いたるところで発泡があふれている築地で、なぜわざわざ新品の発泡を購入する必要があるのだろうか? そんな私の疑問に、従業員の方々が説明してくれた。

 第一の理由として挙げられたのが、新品の発泡で魚を送りたいお客さんがいる場合だ。気心知れた鮮魚店ならば、使用済みの発泡に魚を入れて渡すこともできるが、通販など相手の顔が見えない場合は、そうもいかないからだ。

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