この時、2万人を超える観客がワウリンカを後押ししたのは、単に良い試合を見たい、あるいは少しでも長い時間を楽しみたいという、判官びいきに似た声援だっただろう。だが一度当たり始めたワウリンカは、観衆の声も味方につけて、さらにギアを上げて加速する。“世界最強”と称される片手バックハンドの強打と打ち分けが、錦織のスピードと読みを上回りだした。

 2日前、世界ランク2位のアンディ・マレーと4時間の死闘を繰り広げた錦織には、一度火のついたワウリンカの勢いを押し留めるだけのエネルギーが残っていなかった。第12ゲームをブレークされ、第2セットはワウリンカの手に。このセット、8本あったブレークチャンスを1つしかモノにできなかった錦織は、「あのセットは取らなくてはいけなかった」と試合後に悔いた。

 この第2セットを失ったことが、結果的には試合そのものの趨勢を決めた。第3セットでは、ブレークされてもすぐに奪い返す意地を見せた錦織だが、明らかに足の動きが止まり始め、第10ゲームをブレークされてセットも落とす。

 第4セットでは立ち上がりから、相手に10連続ポイントを許して主導権を握られた。サーブ&ボレーを幾度も試み、必死に活路を見いだそうとした錦織だが、“野獣”のパワーを止め切れず、3時間7分の戦いの末についに力尽きた。