確かに認知症は一度発症すると、もとの状態には戻せないのが現状です。「がんばれば治る」といった大きな希望を持つと、結果的に挫折することになりかねません。しかし現在は進行を遅らせる効果が期待されている薬や認知機能トレーニングがあり、地域のサポート態勢も整備されてきています。

「こうしたプラスの材料をもとに“妥当な希望”を持つことがMCIと診断された人にとって、絶望や否認から抜け出すことにつながるのだと思います」(朝田医師)

 妥当な希望を持つために必要な要素の一つが、MCIと診断されながら、前向きに生きている人の話を聞くことです。

「身近な家族や親友でも、認知症でなければ、本当の意味で共感はしてもらえません。共感できるのは同じようにMCIや認知症と診断された人だけです。さらに同じ境遇にある人が、認知症と向き合って元気に生きている姿というのは、MCIと診断されて今後どのように生きていくかという手がかりをつかむためのお手本になります」(同)

 また、同じ境遇の人たちが集う場が持つ力も大きいといえます。認知機能トレーニングをするのも、一人でするよりもやる気が出て集中力が高まり、一丸となってがんばれるそうです。

 MCIや認知症の人の話を聞いたり、共にトレーニングをしたりする場は、当事者の会や地域の認知症カフェ、認知症予防教室、医療機関が実施する「認知力アップデイケア」などがあります。こうした場は各市区町村に設置されている「地域包括支援センター」などで紹介してもらえます。(取材・文/中寺暁子)

※週刊朝日ムック『すべてがわかる 認知症2016』より