落胆の中で迎えたはずの第3セットは、我慢からの再スタートであった。錦織は焦らず、とはいえ消極的になることもなく、守備を意識しながらじっくり打ち合い、相手のミスを巧みに誘った。最大の見せ場は、第4ゲームをブレークし、4-2とリードして迎えたサービスゲーム。ミスが続き15-30とリードされるが、ここで飛び出した起死回生のフォアのパッシングショットが、錦織にふたたび勢いを与える。このゲームをキープした時点で、試合の行方は、ほぼ決した。

 5-3で迎えたサービスゲームでは、第2セットと同じ轍を踏むことなく、サーブの一打一打に集中する。最後も錦織が切れ味鋭いサーブを打ち込むと、ナダルのリターンは、大きくラインを割っていった。その打球の行方を見届けながら錦織は、薄暮の中で拳を高々と掲げる。1世紀近くも閉ざされた扉をこじ開けた時、錦織がみせたのは弾けるような歓喜ではなく、深くかみしめるように深い感慨と安堵だった。