ナショナルチームでは最年長でキャプテンという立場も負担になった時期がある。「キャプテンとしてチームをまとめなければ」との使命感が時に過剰になり、精神的な悪循環を生んだ。団体戦に臨んだ世界卓球でも、プレッシャーに押しつぶされそうな福原がいた。負けが込んだ試合の後にはチーム最年少の伊藤に、思わずつらい胸のうちを打ち明けたとも聞いている。

 だが、福原は変わった。チームのまとめ役ではなく、メンバーが個性を生かせる雰囲気づくりをすればいいと考え方を変えたからだ。それからはずいぶん気が楽になり、五輪までの約4カ月は自身のトレーニングに集中することができた。五輪に向けた合宿では、1日12時間におよぶ練習を毎日こなした。その成果が五輪本番の快進撃につながったといえるだろう。

 福原の試合からわかるように、中国の壁は高く厚い。また、人知れず強化を進めている北朝鮮やヨーロッパにもドイツのような強豪国がある。その中で「打倒中国」を掲げて、世界ナンバーワンをめざす日本にとって、今回の敗戦は世界との力差をはかる大きな意味を持つ。

 「愛ちゃんにメダルを取らせてあげたかった」という声は大きい。福原自身も試合後、「やっぱり五輪はメダルを取らないと意味がない」と話しているようだが、この敗戦は未来への試金石。4年後の東京五輪に向けて卓球界全体が糧にしなくてはならない。(文・高樹ミナ)