勝負の行方は最終種目の鉄棒にまでもつれ込んだ。鉄棒は内村が得意とする一方で、ベルニャエフはそこまでの高得点がのぞめない種目でもある。しかし約0.9点の点差は決して小さいものではなく、内村に求められるのはやはり完璧な演技だった。

 ここで、先に演技をする内村が絶対王者の貫録を見せつけた。冒頭の離れ技を高い位置で決めると、その後も次々と離れ技を成功。着地まで止めてみせると、その完成度に会場は大きく沸き立つ。得点は15.800点。最終演技者のベルニャエフに大きなプレッシャーをかける形で演技を終えた。

 ここでベルニャエフが14.899点以上出せば、ベルニャエフの優勝が決定する。予選では15.133点出していただけに、それは決して難しいことではなかった。そして、ここまでほとんど完璧と言っていい演技を見せてきたベルニャエフが、ここでも完成度の高い演技を見せる。3つの離れ技を成功させると、ラストの着地も一歩におさめ、ガッツポーズ。やや落ち着かない様子で得点を待つが、表示されたのは14.800点。これにより内村の金メダルが決定した。

 総合得点での内村とベルニャエフとの差はわずか0.099点。まさに五輪史上に残る接戦を制しての金メダルとなった。

 内村は試合を次のように振り返る。

「鉄棒で最後にようやく自分の演技ができたので、これで負けても悔いはないという感じで、オレグ(ベルニャエフ)の鉄棒を待っていました。(鉄棒の)着地は絶対に止めてやろうという強い気持ちで、あとはいつもどおりを心掛けてやりました。自分の中ではあまり感覚は良くなかったんですが最後は運が味方してくれた感じがしました。もう疲れ切りました、出し切りました。もう何も出ないところまで出し切ったので、嬉しいより幸せですね。これだけいい演技で一番いいメダルをもらえたので、一番幸せだと思います」

(文・横田 泉)