絶対王者のマイケル・フェルプスに迫る泳ぎで銀メダルを獲得した坂井聖人。(写真:Getty Images)
絶対王者のマイケル・フェルプスに迫る泳ぎで銀メダルを獲得した坂井聖人。(写真:Getty Images)

「やってきたことを信じて、おまえらしく頑張ってこい」

 男子200mバタフライ決勝に挑む坂井聖人の胸に、奥野景介コーチの言葉が響いた。

 スタート直後に飛び出したのは、この種目のために復帰したと言っても過言ではない絶対王者のマイケル・フェルプス(アメリカ)。坂井は100mの折り返しで、フェルプスから遅れることちょうど1秒差の、54秒35。150mまでに周囲を引き離しにかかるフェルプスに対して坂井は冷静にレースを運び、自己記録を上回る1分23秒73で150mをターン。

 ここからが、坂井の勝負どころだった。準決勝後、坂井は「ラスト50mで世界の強豪を差したい」と話していた。その言葉通り、徐々に周囲の選手たちを追い詰めていく。

 ラスト15mでスピードが鈍ったフェルプスを一気に追い詰めていき、勝負はタッチまでもつれ込む。

 1 マイケル・フェルプス 1分53秒36
 2 坂井聖人 1分53秒40

 電光掲示板の表示を見た坂井は、右手で拳を握り、小さく、何度もガッツポーズを繰り返す。「1番じゃなくて悔しいですけど、0秒04差でも、うれしいです。とにかく、うれしいです」。憧れで尊敬するといってやまないフェルプスと勝負できたことに、坂井は終始笑顔で喜びを表した。

 昨年、ロシア・カザン世界水泳選手権では、150mを2位で折り返しながら、ラスト50mで失速して悔しい4位だった。その経験から、最後の50mでラストスパートをかけるためのトレーニングを行ってきた。その成果は、最後のラップタイムを見るとよく分かる。決勝を泳いだ8人のなかで、坂井ただひとりがラスト50mを29秒台でカバーしているのだ。1年間、課題を明確にし、その克服に取り組んできたことが、銀メダルという結果となって表れたのである。

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