もっとも、イチローに関しては、“3000”に到達する以前から殿堂入りは間違いないと思われていた。27歳でメジャーデビューし、30代での合計2080本はメジャー史上最多(ローズでも2025本)である。

 2001年に新人王とMVPを同時受賞、262本というシーズン最多ヒット記録保持者、10年連続200安打以上、さらにはオールスター10度、ゴールドグラブ賞10度といった数字は燦然と輝く。

 それに加え、日本人野手に道を切り開いたパイオニアとしての存在価値も大きい。野球人としてのトータルでの功績が評価される殿堂入りに、これほどふさわしい選手は他に少ない。そんなイチローに関して、興味深いのは殿堂入りうんぬんより、引退までにどれだけ記録を伸ばすかというところだろう。

「彼は50歳までプレーしたいと言っている。『(記録を)早く達成してもう家に帰りたい』なんて言っているわけじゃなく、『まだプレーし続けたい』と言っているんだ。だから、焦る必要はないよ」

 3000本が秒読みになった段階で、マーリンズのドン・マッティングリー監督は冗談交じりでそう語っていた。実際にイチローは米メディアの取材に対し、50歳までプレーしたいと繰り返し語っている。

 仮に今後も第4の外野手としてプレーを続け、スタメンは週に1戦、残りは代打だったと想定した場合……1年の安打数は50~70本くらいが妥当なところか。このペースで行くと、50歳で迎える2024年のシーズンには3500安打に近づいていくことになる。42歳にして現時点で打率.317を残している老雄にとって、絶対に不可能なことではないようにも思えてくる。

「次にこういう状況が生まれるとしたら4000(本安打)しかないですからね。そこまではなかなかですから。でも200本を5年やればなってしまいますからね、どうですかね」

 3000本安打到達後には、冗談めかしながら、本人も今後のさらなるマイルストーンの追求にまんざらでもなさそうな口調だった。

 もっとも、これらはすべて仮定の話に過ぎず、今後に去年のような成績(153試合で打率.229)に終わるシーズンがあれば翌年の契約は難しくなる。いつ終焉を迎えても不思議はない。やはりイチローのメジャーでのキャリアは、最終盤に差し掛かっていると考えるのが妥当なのだろう。だとすればなおさら、今季の“狂い咲き”と呼べるほどの好成績は凄いことに思えてくる。

 イチローは戦力としてマーリンズに貢献し続け、ハイレベルのプレーを保ったまま大記録に到達した。もはや殿堂入りも絶対確実。そんな背景を考えれば、2016年8月7日はより意味のある1日に思えてくるのである。(文・杉浦大介)