チェルシー時代もレアル・マドリー時代も、モウリーニョは直接的・間接的にグアルディオラにケンカを売ってきた。なかでも有名なのは、2009年にグアルディオラ率いるバルセロナがチェルシーを倒してCL決勝に辿り着き、そのまま優勝したことを「スタンフォード・ブリッジ(チェルシーのホーム)でのスキャンダルを生き延びた」とこき下ろしたこと。「主審がまともなら、みんなハッピーだ。グアルディオラを除けばね。彼は間違ったジャッジを望んでいるから」と、相手は不当なジャッジで準決勝を勝ち上がっただけだと主張した。

 ちなみにこれはレアル時代の2011年、CL準決勝ファーストレグでまたもバルサに敗れた際の発言。胸ロゴでユニセフを「宣伝」していることもバルサ寄りジャッジの一因とモウリーニョにほのめかされ、冷静を貫いてきたグアルディオラも怒り心頭。「プレスルームでの彼は最低だ。世界のことを何でも知っているような話し方をする、クソッタレだ。張り合う気はさらさらない」とぶちまけた。

 モウリーニョが攻撃的なコメントを口にするときは、大抵「ジャッジが偏っている」という怒りが根底にある。しかし「うちのチームを優勝させたがらない人間がいる」という“陰謀論”も、何度も聞いていると飽きてくる。

 それに比べれば、ヴェンゲルとの舌戦はバラエティに富んでいるし、皮肉もきいていて、場外バトルとしてはこちらの方が面白い。補強策に関し、ヴェンゲルから口出しされると「覗き魔だね。望遠鏡で他人の家を覗く人間がいるが、彼も口を開けばチェルシーのことばかりだ」と言ってみたり、ヴェンゲルを「失敗のスペシャリストだ。8年もの無冠はとても長い」と痛いところを突いてみたり。もっともこれは、モウリーニョの「自分たちは優勝候補ではない」という趣旨のコメントに対し、ヴェンゲルが「レースに参加していないと言えば、レースに負けることはないだろう。失敗が怖いから自分たちを除外しているんだ」と煽ったことに端を発する。自らケンカを吹っ掛け、売られたケンカは喜んで買う2人だけに、今季もこの手のやり合いがあるはずだ。

 上記2人は“お約束”として、興味深いのはモウリーニョvsクロップだ。心理戦を得意とするモウリーニョに、陽気な愛されキャラのクロップがどう対応するか。モウリーニョは昨季、クロップについて「親しい友ではない。それはフットボール的に許されないからね。だが、彼のことはとても好きだ」と語っており、クロップも「ナイスガイだ。ジャーナリストや審判でなければ、彼はナイスガイだよ。私はそのどれでもないので、彼との会話は楽しい」とユーモアを交えてコメント。悪くない関係である。

 熱血漢のクロップは、第4審判員に詰め寄ってヴェンゲルから「まあ落ち着け」と笑われることはあっても、敵将に嫌味を見舞うことはまずない。意地の悪い質問には「微笑みながら適当に返す」というスルー技術も身に着けた。クロップの場合はモウリーニョと衝突するより、第4審判員に跳び蹴りを食らわせる方が先かもしれない。