「ECが目指したのは『ヒト・モノ・カネの移動の自由化』。ドイツ、フランス、イタリアが『通貨統合先行』を重視したのに対し、英国は『市場統合先行』を主張した。ここでも政治と計画を優先する大陸欧州勢と、経済と成り行きを優先する英国が反目した。ド・ゴールの指摘通り、海賊国の『やってみなきゃわからない』『出たとこ勝負』という感性と正面からぶつかったのである」

 その後ECは、1993年のマーストリヒト条約発効で、より政治色の強いEUとなった。だが、英国は統合通貨「ユーロ」の導入はしなかった。そこに経済的合理性を見いだせなかったのであろう。浜氏の指摘通り、実利を重んじる海洋性国家のメンタリティが表出したように思える。

 英国EU離脱の真相は本当に移民に対する反発や右翼民族主義だけにあるのか。欧州統合の歴史を丹念にひもといていけば、多種多様な国家を統一することに無理があったことがわかる。EUは結局、英国という「海賊」を手なずけることはできなかったのだ。

 さらに、浜氏は英国のEU離脱はスウェーデンやデンマークに波及するとも述べている。ロシアと国境を接するフィンランドにはEU残留のメリットはあるかもしれないが、北欧諸国はもともと海洋性国家であり、英国同様、「海賊国」的な歴史を持っている。ノルウェーに至っては、EUにもユーロにも加盟していない。

 とくに政権が中道右派で、反移民機運が高く、王室を持つなど英国との共通点が多いデンマークのEU離脱(=DEXIT)の現実性は高いのではないだろうか。デンマークはマーストリヒト条約批准を「国民投票」で否決した歴史的事実もある。

 迫り来る世界危機“欧州ショック”を乗り切るためにも、今回の出来事を冷静に分析し、新しい協調のあり方を探り、周辺国との恒久平和の実現に向けた方策を見いだすことが求められている。